
本学の紀要である法学論叢第32号が岡山商科大学機関リポジトリにて公開されました。

本学の紀要である法学論叢第32号が岡山商科大学機関リポジトリにて公開されました。
今回は吉井先生にご寄稿いただきました。
2024年は世界的に選挙の年だといわれています。その頂点は11月5日のアメリカの大統領選挙ですが、ここでは、フランス議会選挙(6月30日、7月7日)、イギリス議会選挙(7月4日)に先立って、6月6~9日に行われた欧州議会選挙についてお話ししたいと思います。
欧州議会は、欧州連合(EU)の起源である欧州石炭鉄鋼共同体の共同総会として、1952年9月、初めて開かれました。当時、欧州議会の議員は加盟国議会の議員から選ばれ、共同体の諮問機関であり、立法権限は保有していませんでした。1970年、欧州共同体予算の一部の分野に関する立法権限が欧州議会に与えられ、その後権限分野が拡張されるとともに、1979年、直接選挙により議員が選出されるようになりました。このような経緯から、普通の国であれば議会(国会)が単独で立法権限を保有しているのですが、EU理事会(加盟各国の閣僚による議決機関)と立法権限を共同保有していることが欧州議会の特徴の一つです。もう一つの特徴は、ストラスブール(フランス)とブリュッセル(ベルギー)の2カ所で議会が開かれていることです。事務局がルクセンブルクにもあるため、議員や職員は3都市を行き来しなければなりません。

今年の欧州議会選挙の話に戻ると、マスコミでは、フランスやドイツなどで極右政党が伸び、フランス議会の解散総選挙につながったと報じられていました。欧州議会選挙の仕組みを説明しておきましょう。総数は720議席で、ドイツ96、フランス81からキプロス、マルタ、ルクセンブルクの6までおおむね人口比例で議席が配分され(ルクセンブルクの人口はドイツの185分の1ですから、小国が有利となるように議席配分されています)、加盟27ヵ国それぞれの方法で選挙が行われます。選出された議員は政党会派に属し、加盟国のためではなく、欧州連合のために活動します。
政党会派別の獲得議席数は次のとおりです。
| 政党会派 | 獲得議席数 | 増減数 | |
| 欧州人民党(EPP) | 中道右派・親EU | 188 | +10 |
| 社会民主進歩同盟(S&D) | 中道左派・親EU | 136 | -4 |
| 欧州保守改革(ECR) | 右派(一部極右) | 82 | +10 |
| 欧州刷新(Renew) | 中道派・親EU | 80 | -25 |
| 無所属 | 76 | -16 | |
| アイデンティティ・民主党(ID) | 極右・右派 | 64 | +25 |
| 緑・欧州自由連盟 | 環境・左派・親EU | 54 | -19 |
| 左派・北欧緑左派同盟 | 左派・急進左派 | 40 | +9 |
注:前回(2020年)の議席数は705。
出所:欧州議会HP、JETRO「欧州議会選挙から占う今後のEU政策」。
フランスでは国民連合が30議席、ドイツではドイツのための選択肢(AfD)が15議席を獲得し、イタリアでもメローニ首相が率いるイタリアの同胞が勝利を収めるなど、極右政党が伸張したのは確かなのですが、EPP、S&Dの第1・2党も合計で6議席伸ばし、与党の一角を占める欧州刷新を加えると400を超える議席を確保できた結果、フォン・デア・ライエン委員長(EPP)の続投が決まりました。しかしながら、極右政党が議席を伸ばした一方で、親EUの欧州刷新、環境重視の緑の党が大きく議席を減らしたことは、フォン・デア・ライエン委員長がこれまで進めてきた、2050年までに温暖化ガス準排出量をゼロとすることを目標とするグリーン化政策にブレーキがかかる可能性があることが懸念されます。
気をつけなければいけないのは、EU市民がEUではなく各国の政治・経済状況にもとづいて投票しているのではないかという点です。ドイツでは、欧州の病人になってしまったといわれる経済不振を背景に、ショルツ首相率いる社会民主党が2議席、緑の党が9議席と議席を減らし、AfDが議席を伸ばしました。フランスでも、労働市場・失業社会保険・年金などの改革などへの反発から、マクロン大統領率いる中道派の欧州刷新(旧・共和国前進)が8議席、緑の党が7議席を減らし、極右の国民連合が躍進しました。マクロン大統領は、国民連合の躍進をくい止めるため、急きょ議会を解散し選挙が行われました。国民連合の躍進は止めることができたものの、中道・与党連合は議席を減らし、極左・左派が躍進した結果、単独で政権を担える政党がなくなり、フランスの政治混迷が続くことになりました。
ドイツやフランスと同様のことが、私の専門である中東欧諸国でも起きています。ハンガリーでは、オルバン長期政権への批判から政権与党フィデスが2議席減、腐敗を批判したティサ(尊重と自由)が7議席を初めて獲得しました。ポーランドでも、政権を担ってきた法と正義(右派連合)が7議席減らし、市民フォーラム(市民連立)が7議席を増やしました。ルーマニアでは、国内与党の中道右派連合は7議席減の3議席にとどまり、野党の社会民主党が19議席を維持しました。ポーランドやルーマニアでは、フランスやドイツと同じように、極右政党が議席を伸ばしています。
EUの起源である欧州石炭鉄鋼共同体が誕生してから73年、欧州議会に直接選挙が導入されてからでも45年が経過しています。EU市民はEUパスポートやIDカードをもち、あらゆるところに国旗とEU旗が掲げられるなど、毎日EUを身近に感じているはずです。しかし、欧州議会選挙は国内選挙の延長線上で投票が行われ、しかも極右・極左へと極端に振れているようです。もし(ほぼ?)トラもその線上にあると思われます。
EU市民がEUではなく国内情勢をもとに投票したことは、私たち日本でいえば、国会議員選挙で自分たちの町の利益にもとづいて投票することと同じでしょう。EU政治が極端に振れているのも、視野の狭いシングル・イシューだけを公約に掲げ、他者を批判し続ける政党が増えていることと同じでしょう。民主主義が機能するためには、個人や少数派の基本的な権利を擁護しながら多数派の意思が形成されなければなりません。
21世紀の政治をより正しい方向に向けていくため、岡山商科大学の皆さんには、より広い視野をもつため、大学時代の4年間だけでなく、卒業後も学び続けていただきたいと思います。
(2024年7月13日 経済学部 吉井昌彦)
本学経済学部教員の熊代和樹准教授の研究を元に寄稿した記事が週刊東洋経済(7月20日号)に掲載されました。
記事は「経済学者が読み解く現代社会のリアル」という連載コーナーに掲載されています。このコーナーは経済学者が自身の研究が社会とどのように関わっているかを一般読者向けに解説するものです。
今回の記事は熊代准教授が龍谷大学経済学部の津川修一氏と共同で進めているプロジェクトの一部で,それぞれの専門分野である行動経済学と公共経済学を併せることで生まれた研究を元にしています。
経済学では,合理的でない人は真に望ましい選択から外れた選択をしてしまうというネガティブな結果が現れることが多いのですが,記事の中では,合理的でないことがむしろ良い結果をもたらすかも?という意外な例を紹介しています。
記事は東洋経済オンラインに無料会員登録することで以下のリンクから誰でも読むことができますので,是非ご一読ください!
https://toyokeizai.net/articles/-/775670
今回は三谷直紀先生にご寄稿いただきました。

2024年2月末一週間ほどの日程で西アフリカのコートジボワール(Côte d’Ivoire)共和国に出張した。主な目的は、独立行政法人国際協力機構(JICA)が行っている「JICAチェア」の一環として開催された国際コンファレンスで、日本の人的資源開発の経験(歴史)に関する基調講演を行うことであった。合わせて官庁訪問や現地の大学での講義なども行った。以下、コートジボアールという国の概要と訪問した際の見聞記である。

コートジボアール共和国は、西アフリカの赤道のすぐ北に位置する国である。1960年にフランスの植民地から独立した。人口は約2800万人で、国土は日本の0.9倍の広さがある。首都は中心部に位置するヤムスクロであるが、南部の都市アビジャンにも主な省庁があり、実質的な首都機能はこちらにある。アビジャンは人口約470万人の国際都市で西アフリカ地域の重要なハブとしての役割を果たしている。
民族的には60以上の部族から成り、各部族では固有の部族語が用いられている。公用語はフランス語である。また、宗教別人口分布はイスラム教42.5%、キリスト教39.8%、伝統宗教2.2%、その他の宗教0.7%、無宗教12.6%である(2021年国勢調査)。社会的文化的多様性に富む国であるが、反面国民的な統合意識をいかに高めるかが課題である。
人口増加率は対前年比2.5% (2022年) と高い。人口の年齢構成は30歳未満が70%以上を占めており、若年人口の割合が非常に高い。少子高齢化が進んだ日本とは対照的である(図1、図2)。乳幼児死亡率も高く、若者の就学率の向上や雇用機会の確保など課題も多いが、人的資源開発による将来の経済発展の可能性も秘めている。

気候は、気温の変動が小さく、南部では湿度が高く、南から北に向かって降水量が減少するのが特徴である。月ごとの平均気温の変動は小さく、日中の気温は摂氏 20 度前半から摂氏 30 度半ばの範囲である。乾季は11月から3月まで続く。12 月から2 月の時期に北東から「ハルマッタン」という乾いた風が吹き、サハラ砂漠の砂が飛んでくる。 4 月から 10 月までの雨季には、年間降水量の合計が北東部と中部で約 1,100 mm、北西部で約1,500 mmの雨が降る。
コートジボワールの1人当たり国民所得GNIは2,620米ドル(2022年、世銀、196カ国中145位)である。西アフリカは世界で最も所得の低い地域のひとつであるが、その中では地中海側のアルジェリア(3,900米ドル)やモロッコ(3,710米ドル)に次いで所得の高い国である。ちなみに日本は42,440米ドル、インドは2,380米ドルである。
同国の基幹産業は農業で、農業に従事する人口は全体の約50%を占め、GDPの約30%、輸出の大部分を占める。カカオやコーヒーなどの商品作物が多い。カカオの生産量は世界一で、2位の隣国ガーナを大幅に上回っている。しかし、付加価値生産性はかなり低い。その背景には輸出されるカカオの国内加工率が20%程度とかなり低いことがある。最近カカオを自国で加工し、上質なチョコレートを作って輸出を図る企業も現れてきているものの品質面での欧米との差は依然大きいようである。

1993年より産油が開始され、近年、石油・石油製品は、カカオ・コーヒーの輸出と並び主要貿易品目となっており、2023年からは、バレーヌ石油・天然ガス田で生産を開始している。
政府は、国内インフラ整備等による開発計画に取り組み、2012年以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた2020年を除き、毎年約7~9%の高い経済成長を維持している。現在、2030年までの上位中所得国移行を目指し、更なる経済社会開発に取り組んでおり、貧困対策と若年層の雇用確保、民間投資の誘致、産業の多角化にも取り組んでいる。
コートジボワールはサッカーが盛んな国である。アビジャン中心部にも立派なサッカー場があった。2024年2月の私の訪問直前にアフリカンカップで3度目の優勝を果たし、街には祝賀ムードが満ち溢れていた。国民の統合意識高揚に大いに寄与したに違いない。
コートジボアールは食べ物がおいしいところである。しっかり下ごしらえをするなど料理の味を大切にする国民であることがうかがえる。実際、今回訪問して魚や肉、食用バナナ、果物など大変おいしかった。
出発前に黄熱など8種類の感染症予防のワクチンを接種した。日本からパリ経由で空路片道約33時間かかった。しかし、冬の日本から常夏の国に来て体調はがぜん良くなった。
到着の翌日に経済企画開発省と労働省を訪問した。次官クラスも参加するというハイレベルの会議であった。初等中等教育やインフォーマルセクターの問題、労働基準監督行政の諸問題などについて議論した。

その夜、国際会議の主催者であるJapan Corner所長で国立高等統計応用経済学大学校(ENSEA)教授のアウレ(AHOURE)先生の自宅での夕食会にJICAの職員二人とともに招待された。当地の興味深いお話を伺いながら、料理をいただいた。大変おいしかった。1日がかりで準備された由、心のこもったおもてなしに感激した。
余談だが、アビジャンの中心部のホテルから郊外のアウレ教授宅まで行くのが大変だった。通常は車で40分で行けるところが交通渋滞で2時間もかかってしまった。渋滞で止まっている間もたくさんのバナナなどの物売りが車の周りにたくさん寄ってきて商売をしていた。聞けば、地下鉄などが未整備のため交通渋滞は毎日のことで、その解消が重要な政策的課題になっており、日本企業もそのための道路整備等で活躍している由。

アウレ教授が教鞭をとっている国立高等統計応用経済学大学校(ENSEA)を訪れ、英語で労働経済学の講義を行った。日本の大学と違って、学生諸君からたくさんの質問が出て活発な議論ができた。その後、大学構内にJICAの協力で開設されたJapan Cornerを視察した。まだ、日本関係の書籍は少ないもののスペースが広く、立派なセンターであった。今後日本語教育も積極的に行っていく由。

2月22日に開催された国際コンファレンスは、経済企画開発大臣や駐コートジボアール日本国大使なども参加する盛大なものであった。開催場所は前日と同じ大学ENSEAの構内であった。会場の装飾が色鮮やかなことと紅白の風船がここかしこに上がっていることが印象的であった。まず、会議を盛り上げるために、民族音楽に合わせて舞踊が披露された。

経済企画開発大臣や日本国大使などのあいさつに続いて、コートジボアールにおける人的資源開発や若年の雇用機会の現状に関する報告等があった。そして、私から日本の人的資源開発の経験に関する基調講演をフランス語で行った。主に、江戸時代からの学校教育と企業内訓練の歴史について説明した。岡山県の閑谷(しずたに)学校講堂(国宝)や遷(せん)喬(きょう)尋常(じんじょう)小学校(1907年竣工、重要文化財)などの写真も使って、いかに日本が昔から教育や訓練に力を入れてきたかを説明した。日本の人材形成システムの特徴は、誰もが参加できるという意味で民主的でかつ競争が激しいという点にあることを強調した。フロアからもたくさんの意見が出て会議は盛会であった。

その夜は、日本国大使公邸での天皇誕生日祝賀会に招かれた。公邸は高級住宅街にある瀟洒な建物で、その広い中庭で行われた。コートジボワールの各界の要人に加えて、フランス人などの外国人や日本企業や日本政府関係者など多くの人が招かれていた。日本車の展示とともに、日本企業やJICAなどの展示ブースも設けられ、日本料理や日本酒などもふるまわれていた。魚の養殖事業に携わっている専門家などにも会った。この地にこれだけ多くの企業や政府機関が進出し、日本人が活発に働いていることに感銘を受けた。

滞在最終日は首都ヤムスクロまで出向いて、もうひとつの訪問先大学:国立フェリックス・ウフェ・ボワニ理工科学院(INP HB)を訪れた。アビジャンから車で片道約3時間、立派な高速道路が通っていた。道路の周辺はサバンナ特有の乾燥した畑地帯であった。ときおり通りかかる村の市場の風景は、この国の農村部の貧しさを感じさせるものであった。

今度の大学でも英語で講義を行った。INP HBは理工系のエリート校で、広大な敷地に立派な校舎が立っていた。コートジボワールのみならず近隣の国からも厳しい選抜試験をして受け入れており、全寮制で授業料等全額免除される由。いかに先端技術分野のエリート教育に力を入れているかがわかる。私の講義でも如何にも優秀そうな学生からたくさん質問を受けた。INP HPで学んだ後、さらに留学したいという学生もいた。目を輝かせて学んでいる様子が印象的だった。

大学訪問のあと、ヤムスクロにあるカトリックの大聖堂を見学した。広大な敷地に建つ壮大な大聖堂とステンドグラスの美しさに感動した。

今回の出張ではJICAの人達に大変お世話になった。感謝!
(経済学部 三谷直紀)
≪参考資料≫
外務省『コートジボワール共和国 基礎データ』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/cote_d/data.html
(独)国際協力機構(2023)『JICA国別分析ペーパー・コートジボワール共和国』 https://www.jica.go.jp/cotedivoire/ku57pq0000046fwq-att/jcap.pdf
今回は萩原先生にご寄稿いただきました。
私は産業連関分析を専門にしています。産業連関分析は、いわゆる「経済効果」を計算する手法として知られています。今回は、産業連関分析の紹介を行い、その応用例として、テイラー・スウィフトの東京公演、ドジャースに移籍した大谷翔平の経済効果を取り上げます。経済効果とは何かについては、ここでは触れません。興味を持った学生さんは、私の授業を履修してみてください。
アメリカの歌手のテイラー・スウィフトが2024年2月に来日し、東京ドームで4日間講演を行いました。その「経済効果」を全国で341億円とした推計を、江頭満正氏が経済効果.netというwebサイトで発表しました。この推計は、毎日新聞(2024年2月6日)や経済情報サイトのBloomberg(2024年2月7日)でも紹介されています
この推計について、どの程度妥当か考えてみましょう。

まず、最終需要の増加として、来場者消費として、チケット(54億円)、グッズ(34億円)、宿泊(10億円)、主催者側消費として、事業費(40億円)、その他も含めて合計162億円とこの推計では想定します。このような最終需要の増加によって、生産が拡大し、一次波及効果が265億円、さらに生産拡大が付加価値額の拡大をもたらし、消費の拡大をもたらすというケインズの乗数効果(二次波及効果)が76億円で、合わせて341億円の経済効果、188億円の付加価値額の増加があるとされています。
この推計は適切でしょうか?まず、「来場者消費」と「主催者側消費」を並列しているところに問題があります。事業費(40億円)などはチケット販売などの収入をもとにした支出なので、二重計算になっています。
次に、チケット販売(54億円)から事業費(40億円)を差し引いた14億円は利益となりますが、主催者とテイラー・スウィフトに分配されるでしょう。主催者はTaylor Swift TouringとAEGX (アメリカのAEG Presentsと日本のエイベックスの子会社) なので、利益の大半は海外の所得になります。国際収支の観点からは、サービスの輸入ということになります。国内への需要の波及はあまりないと考えられます。グッズ販売(34億円)についても、販売されるグッズは、アメリカから持ち込んだもの(輸入)だろうと考えられます。
チケット販売(54億円)のうち事業費(40億円)は二重計算、残り(14億円)のほとんどは海外への支払い、グッズ販売(34億円)も海外からの輸入なので、88億円が過剰です。国内に向けられる最終需要は、国内での旅行費、事業費などの74億円(162億円-88億円)となり、半分以下になります。したがって、341億円の経済効果、188億円の付加価値額の増加という推計は半分以下になります。
次に、最近発表された「宮本勝浩 関西大学名誉教授が推定 – 2024年ドジャースにおける大谷翔平選手の経済効果は約865億1,999万円」(関西大学のプレスリリース2024年5月21日)という経済効果の推計を取り上げてみましょう。「阪神優勝の経済効果は阪神の約70数名の選手全員で創り出したものであったが、大谷選手はたった一人でその額に匹敵する約865億1,999万円の経済効果を創り出すと想定される。」とコメントしています。
どのようにして推計したかについては、「推計方法および分析結果の無断転載・無断転用の防止のため、ウェブサイトには詳細資料を掲載しておりません。」「本発表は報道資料として発表しております。資料提供元との取り決め等により、報道機関以外の方への資料提供は行っておりません」とプレスリリースに記載されていて、私たちには詳細は分かりません。
この推計は、朝日新聞、山陽新聞などで報道されていますが、関西大学のプレスリリースとほぼ同じ内容になっています。この中で、日刊ゲンダイは「大谷経済効果は865億円! NHKが約1割「放映権料87億円」をMLBに支払い大貢献の仰天」(5/23)とする記事の中で、「莫大な金額の内訳を見ると、『ドジャースタジアムでの観客増加による消費増加額』(約22億円)、『スポンサー収入』(約101億円)などに加え、宮本氏は『放映権収入』として日本のNHKとMLBの契約に着目した。」として、NHKへの支払額が約87億円としています(これもNHKの海外からのサービス輸入であり、日本国内に対する波及効果は生じない。)。依然として、推計の詳細は明確ではありませんが、大谷の経済効果865億円を生み出した最終需要はアメリカで生じたものであり、アメリカにおける経済効果を述べていることになります。経済的影響の大きさという意味では、日本における経済効果(阪神の優勝)とアメリカにおける経済効果(大谷翔平の活躍)の大きさを比較しているのであって、どの国で起きたことかはどうでもいいのかもしれません。分析者本人にとっては自明のことかもしれませんが、どこの国における経済効果化を明記しなければ、日本の経済が大谷選手によって経済効果を受けると誤解されることになるでしょう。分析の内容は、公開するべきだったと思います。
産業連関分析による経済効果の推計は、しばしば社会的、あるいは政治的な影響力を持ちます。その公表には責任が伴います。一度発表された数字は独り歩きします。
マスコミは、発表された経済効果をそのまま報道しています。報道を受ける私たちは、報道の背後にある理屈を自分の力で考えてみることも大事です。
(経済学部 萩原泰治)
今回は今年度より着任された中條和光先生にご寄稿いただきました。
中條先生は,教育心理学を専門とし,本学では教職課程の担当として「教育心理学」や「生徒・進路指導の理論と方法」などの講義を担当されています。
新型コロナウイルス感染症も落ち着きを見せ,大学のキャンパスに平常が戻ってきました。
教室で学生と対面し講義をする。学生の質問に答える。こんな当たり前が改めて新鮮に思え,実はたいへん貴重なものであったことを再確認しています。背筋を伸ばし,真剣な眼差しで講義を受けてくれる学生に接し,講義で取り上げているテーマではありますが,学習意欲について少し書いてみたいと思いました。

図1 勉強の意欲(藤沢市教育文化センター,2022,p.11より作成)
注)「もっと,たくさん勉強したいと思いますか?どれか一つに◯をつけてください。」という問いへ回答の割合
図1は,神奈川県藤沢市が行っている「学習意識調査」から抜き出したものです。藤沢市の調査は,昭和の高度経済成長期に始まり56年間に渡ってほぼ5年おきに行われてきました。調査では,中学3年生を対象に,同じ質問項目を用いて学習意欲などの学びの意識の経年変化が調べられました。調査の行われた56年の間に,子どもたちの学習意欲はどのように変化してきたのでしょうか。
図から明らかなように,調査開始の1965年以降,「もっと勉強したい」と答える生徒の割合は減少を続けてきました。しかし,2010年を境に増加に転じています。2022年の藤沢市の報告書では,増加の要因としてコロナ禍の影響を指摘しています。コロナ禍で,学校に通えなくなったこと,社会的距離の確保を求められ,マスク着用やグループ活動が制限された「学校の勉強」を経験したことなどが,生徒たち自身に勉強について改めてその意味を考える機会となったと考察されています。また,2017年に告示された新学習指導要領によって,学校現場で「主体的・対話的で深い学び」,いわゆるアクティブ・ラーニングの視点による授業改善の取り組みが進められていることも生徒の「勉強したい」という思いを高めている要因として挙げられています。
しかし,2015年の調査で「もっと勉強したい」という回答が増加したことについては,どのように考えればよいのでしょうか。実は, 2008年に告示された学習指導要領の改訂の際に,学力の3つの要素の1つとして学習意欲が示され,子どもたちの学習意欲を高めることが学校現場に求められていたことがその理由の1つと考えられます。その際,意欲の指導のために,体験的な学習やキャリア教育などを通じ,学ぶ意義を認識させることが必要と示されました。高校受験を控えた中学3年生を対象とする藤沢市の調査では,このことが功を奏して,2015年の調査で「もっと勉強したい」という回答の割合が増加した可能性があります。
現行の2017年告示の学習指導要領では,さらに踏み込んで,子どもたちの「主体的・対話的で深い学び」を実現するために,「生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう」,キャリア教育の充実を図ることが明記されています。授業において学ぶことと自分の社会的・職業的自立との関係を理解することを通して学びの意義を理解させ,学びに取り組む姿勢を育てることに力を注ぐことが求められているのです。このことが,生徒の学習意欲の向上につながった理由の1つと考えられます。
さて,ここまでは藤沢市の調査報告を拠り所に学習意欲について見てきましたが,高校受験を前にした中学3年生を対象とする調査において,学ぶことの意義を理解させることが意欲の増加につながるという知見は,大学教育に対してもたいへん重要な示唆を与えていると思われます。
大学では,学問の先端や深みに触れることができます。それらを通して学問それ自体の魅力に気づき,意欲的に講義に参加し目を輝かせて学ぶ学生の姿は,教育や学究に勤しむ教員にとっても励みとなります。しかし,社会人への移行を控えた大学生にとって,社会に目を向けること,アルバイトやボランティア活動,旅行などの体験を通して実社会に触れること,インターンシップや大学が提供するキャリア教育などにより「学ぶことの意義」について考えてみることは,自らの学習意欲を高めるうえでたいへん重要なことだと思います。「学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていく」という学習指導要領の文言は,決して小中高等学校段階にとどまるものではなく,むしろ大学生にこそ必要な学びの態度ではないでしょうか。
私の関わる教職課程でも,教員免許の取得を目指して学生が日々研鑽に励んでいます。現在の小中高等学校の教育においては,変化の激しい現代社会において,児童生徒の生きる力を育むことが教育目標に掲げられています。教員の仕事は,社会の構成員の育成であり,まさにエッセンシャルワーカーです。私も,学生の皆さんとともに,教職課程を学ぶ意義やこれからの社会における教員のあり方を考えていきたいと思います。
(経済学部 中條)
引用文献
商大では毎年学内で懸賞論文を募集しています。今年度は経済学科の下記4編が入賞しました。
1)【地域振興に関する事柄の部】
・佳作 2編
寒川吏久⽃「アニメ聖地の成⽴とその展開~アニメ「からかい上⼿の⾼⽊さん」を利⽤した⾹川県⼩⾖郡⼟庄町の旅客誘致に関する研究~」
☆概要:本稿では、「からかい上手の高木さん」の聖地を活用した地域発展政策を行う香川県の土庄町に注目し、調査を進めた。結果、土庄町役場商工観光課が中核的な役割を担っていることが明らかになった。また、作品自体のイメージを崩さないこと、地元企業や地域住⺠などと協力することなども重要になると考えた。
☆感想:もともと私はアニメが好きで、アニメを利用した観光政策に興味がありました。そこで自分の出身地の香川県という点とこれから大きくなっていくコンテンツを利用しているという点から土庄町を調査しました。実際に現地に足を運び、商工観光課の方にインタビューをさせていただけたのが1番の思い出です。昔と違い、子供だけが楽しむものではなく、広い世代で楽しまれる日本のアニメを、今回のような観光政策などに活かしていくことに今後も注目していきたいです。
海透祐也「プロスポーツチームが地域経済に与える影響~ファジアーノ岡山がJ1に昇格した際の経済効果の簡易試算~」
☆概要:ファジアーノ岡山がJ1リーグに昇格した際の岡山市に与える経済波及効果の簡易計算をすることでプロスポーツチームが地域経済に与える経済効果を調査しました。
☆感想:初めての論文作成で思い通りに進まないことが多く、テーマ変更やデータ収集など大変なことが多くありました。最終的には一つのものを完成させることができましたが、もっと計画的に進めることができたらさらに良いものが作成できると感じました。
2)【自由論題の部】
・佳作 1編
横山那伊磨「ホームセンターの海外進出が株価へ与える影響に関する分析」
☆概要:私がアルバイトをしていたコーナン商事を中心としたホームセンターの株価データを扱い、イベントスタディ分析を行いました。そこから読み取れる株価の変動や他企業との比較を論じています。分析にはPythonを使用しています。
☆感想:本稿は卒業論文に提出したものになるのですが、何度もテーマ変更をしたのでとても苦労しました。論文を作成する上で、プログラムに上手く当てはまり、分析できるのかという点が1番大変でした。この論文については改善の余地が多いので今後続けてくれる人が居ればよろしくお願いします。井尻裕之先生お世話になりました。
・努力賞 1編
三木康平,佐藤克己,岸良哉「全国の労働時間&賃金と労働生産性の関係性について~コロナ前とコロナ後の比較~」
☆論文の概要:都道府県別の労働時間、賃金、労働生産性の関係性をコロナ前とコロナ禍で比較して研究を行った。散布図や重回帰分析を用いることで、コロナ前とコロナ禍の社会構造の変化を読み取ることができた。
☆感想:今回は努力賞をいただきありがとうございます。この論文は卒業論文の一環として執筆しました。定期的にゼミ内で進捗を発表しながら、論文を完成させました。その中で、色んな参考になる意見をいただきながら執筆したのですが、中でも担当教員の見識の広さや自分では気付けない視点で指摘された時は「教員は伊達じゃない」と思いました。今回の卒業論文は、自分を含め三人で書き上げました。一人ではこの論文の完成度に至らなかったと思います。(佐藤)
大学の講義で学んでいたPythonを分析する際に活用できたので良かったです。しかし、何度もエラーが出てスムーズに進まなかったため大変でした。(三木)
私たちは、1人ではなく共同で取り組むことで、お互いの弱点を補いながら進めることができました。その結果、納得のいく卒業論文を完成させることができて良かったです。(岸)
1月11日(木)3限は,4年生にとって最後のゼミでした。当日は,4年間の学びの集大成として執筆した卒業論文の発表会。今年はポスターセッション形式で実施しました。
西ゼミは,マーケティングまたは消費者行動研究の領域で,各々の興味と,学術的そして社会的に関心が高いテーマを自由に選び,研究します。たとえば,学生時代に最も打ち込んだスポーツ(卓球や陸上競技など)をマーケティングの観点から議論したり,マスクの消費者需要変化と企業の対応行動を研究したりと様々です。

多くの学生が初めてのポスターセッションでしたが,持ち時間をオーバーするほど,質疑応答も盛り上がりました。
教員の目線では,みな堂々と研究成果を発表していたのが印象的です。時間の都合で,全員の発表を聞くことができず残念でした。
発表を終えて,学生たちから
といった声と充実感に満ちた表情が伺えました。
活動を振り返れば,「大学生らしいことをしたい!」と奮闘した2022年。(その様子はこちらから(https://sangakukan2.osu.ac.jp/tag/donutplan/))これを機に始まった玉野市企業との連携プロジェクトは,後輩たちに受け継がれています。
(2023年10月開催 第2回合同ゼミ[西ゼミ3~5期生対象]の様子)
そして2023年10月に開催した第2回合同ゼミでは自身の就職活動を振り返り,後輩にたくさんのアドバイスをくれました。ありがとう!
個性豊かな3期生の活動はここで一区切り。それぞれの今後の活躍が楽しみです。
(商学科 西春奈)
1月6日,7日の二日間にわたり近畿大学にて,岡山商科大学井尻裕之ゼミ,熊代和樹ゼミ,近畿大学石村雄一ゼミの3ゼミでの合同ゼミを開催しました。この企画は昨年度に続き二度目の開催で,今年度は井尻ゼミから3チーム,熊代ゼミから2チーム,石村ゼミから4チームの計9チームが参加するイベントとなりました。

一日目は日ごろのゼミで行ってきた活動を元にプレゼンテーションを行いました。各ゼミ共に創意工夫に溢れた発表内容で,学生同士の質疑応答も大変盛り上がりました。




二日目はゼミや大学の枠を越えてグループを作り,就職活動支援の一環としてグループディスカッションやディベートのノウハウを学びました。石村先生のご経験を交えた講義内容に,真剣に聞き入る様子が見られました。



閉会式では初日のプレゼンテーションの内容が特に優れていたゼミに賞が贈られ,商大熊代ゼミの1チームが奨励賞を受賞しました。

(経済学部 熊代)
一般社団法人北房観光協会から産学官連携センターへの委託事業で留学生とともに北房を訪れました。北房は日本一のホタルの生息地として有名ですが、北房観光協会が作成した北房の自然とホタルの保護活動について動画の音声の多言語化が今回の目的です。スリランカ出身のヤスミ・ビアンカさんが英語を、中国出身の劉楽楽さんが中国語を担当しました。
まず、里山里海交流館「しんぴお」の多目的ホール「ほたるび」でVR映像を視聴し、その後、英語と中国語の音声録音を行いました(写真右)。録音された音声は北房観光協会の坂本さんによって映像につけられます。韓国語の録音は後日行われます。

里山里海交流館「しんぴお」は日本財団の「渚の交番プロジェクト」の一環として整備された里山と里海のつながりを学ぶ体験学習型施設です。坂本さんのお話では、ホタルを活用した観光振興の視察に韓国からの視察団が来られたそうです。インバウンド旅行者も回復し、特にベトナムやインドネシアからの旅行者への対応として多言語化を促進したいとのことでした。
北房には鍾乳洞や泉に加えて多数の古墳など多くの神秘スポットがあり(写真左)、それらを巡るツアーも人気です。現在、産学官連携センターの依頼で、同ツアーの案内の多言語化(英語、中国語、韓国語)にも取り組んでいます。
(商学科 松浦 黎 徐)