〈経済学部通信〉「将来より今が大事」な人ほど、実は公共財に多く貢献する?——行動経済学で読み解く集団の意思決定

現在バイアスとは何か

みなさんは、「明日やろう」と思いながらついつい先延ばしにしてしまった経験はないでしょうか。行動経済学では、このように将来よりも「今すぐ」を過剰に重視してしまう心理的傾向を「現在バイアス」と呼びます。たとえば、「宿題を今片付けた方が後が楽」だと頭では分かっていてもついつい先延ばしにしてしまう——そんな判断のクセです。

この現在バイアスは、個人の消費行動だけでなく、複数の人が費用を出し合って何かを共同購入・共同利用する場面、つまり「公共財の提供」の問題にも深く関わっています。

公共財と「タダ乗り問題」——そして現在バイアスが生む意外な効果

公共財とは、みんなが共同で使える財やサービスのことです。学校の備品、地域の公園、国境をまたいで管理されるインフラ(橋や道路など)が典型例です。こうした財には古くから知られた問題があります。「どうせ誰かが費用を出すだろう」と考えて自分では出し渋る「フリーライダー(ただ乗り)問題」です。この問題により、自発的な協力に頼ると社会全体として必要な量より少ない量しか公共財が供給されないことが知られています。

経済学科の熊代和樹准教授と龍谷大学の津川修一准教授による本研究は、ここに「耐久性」と「現在バイアス」という2つの要素を加えたとき、何が起きるかについて数理モデルを使って分析しました。耐久財とは、家庭で使用する家具や公共事業で整備される施設のように複数の期間にわたって使い続けられる財のことです。

分析の結果として得られた興味深い発見の一つは、現在バイアスが必ずしも公共財への貢献を減らすとは限らない、という点です。現在バイアスの強い人は将来の価値を割り引いて考えるため、耐久財への貢献が減ると思いきや、「コミットメント効果」と呼ばれる逆の力も働きます。現在バイアスに気づいている賢い(「洗練された」)人は、今のうちに耐久財という形で資産を固定することで、将来の自分が衝動的に使いすぎないよう自分自身を縛るのです。定期預金や満期まで解約できない個人年金に毎月自動で入金するようなものですね。ここでは耐久財が「自分への歯止め」として機能するわけです。この効果が十分に強い場合、公共財への貢献がむしろ増えることが示されました。

「自分の性格をわかっているか」が鍵を握る

本研究がさらに掘り下げたのは、人々が自分自身の現在バイアスをどれだけ正確に認識しているか、という問題です。研究では人々を3タイプに分けています。自分のバイアスを正確に把握している「洗練型」、バイアスがあるのに自覚していない「ナイーブ型」、そして両者の中間の「部分的ナイーブ型」です。

同じ程度の現在バイアスを持っていても、洗練型の人はナイーブ型の人よりも公共財に多く貢献します。その理由は、洗練型は将来の自分が使いすぎることを見越して、あえて耐久財(公共財)という形でお金を縛っておこうとするためです。逆にナイーブ型は、将来の自分がきちんと行動すると楽観的に信じているので、そのような「自分への歯止め」を必要と感じません。

この研究は、公共財の供給を改善するためには、単に補助金を出すといった政策だけでなく、人々が自分自身の意思決定の傾向をどれだけ理解しているか——いわば「自己認識」——が重要な鍵を握ることを示唆しています。「自分は先延ばし癖がある」と自覚することが、実は社会全体にとってもプラスに働く可能性があるのです。


今回の記事は、4月に公開された以下の論文の内容をもとにしています。なお,本研究は岡山商科大学学内公募資金の助成を受けて実施したものです。

Kumashiro, Kazuki and Tsugawa, Shuichi, Voluntary provision of durable public goods under present bias (April 16, 2026). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=6586259 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.6586259

〈経済学部通信〉本学経済学部出身の田 文軒さんが博士号を取得しました!

本学経済学部を2020年3月に卒業した田 文軒さんが,この度神戸大学大学院経済学研究科 博士課程後期課程を修了し,博士(経済学)を取得しました。

田さんは大学院進学後,中国における地域経済の成長要因に関する実証分析をテーマに研究を行ってきました。

先日行われた経済学部教授会にて,修了の報告をしに来てくれました。田さんの今後のご活躍を期待しています!

経済学部教授会にて(写真奥左側が田さん)

田さんは以前にも商大ブログに登場してくれていました。こちらも是非ご覧ください。

【剣道部】日本で竹刀の持ち方だけでなく、「心の持ち方」を学ぶ

田さんの略歴:

中国河南省出身
2014年9月 本学 別科     入学
2016年4月 本学 経済学部 入学
2020年3月      経済学部 卒業
2020年4月 岡山大学大学院社会文化科学研究科    入学
2022年3月        同            修了
2022年4月 神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程 入学
2026年3月        同            修了

 

本学在学中は剣道部に所属し、剣道二段取得

〈経済学部通信〉経済学部新入生合宿を実施しました!

4月4日・5日の2日間、経済学科の新入生を対象に、岡山市立少年自然の家にて新入生合宿を実施しました。
これから始まる大学生活のスタートダッシュとして、「友達づくり」と「経済学の学びへの導入」を目的に行われたこの合宿。初対面同士の不安が、笑顔と達成感に変わる2日間となりました。

二日間楽しみましょう

最初は緊張…でもすぐに打ち解ける雰囲気に

集合したばかりの会場には、少し緊張した空気が漂っていました。ですが、入所式の後の採火活動が始まると状況は一変。みんなで協力することで自然に会話が生まれます。

採火活動
無事に火が付きました
二日間照らしてくれるランプ

自己紹介ゲームでは気づけばあちこちで笑い声が広がっていました。
大学生活の最初のハードルである“友達づくり”をしっかりサポートできた様子でした。

自己紹介ゲームで盛り上がりました

雨でも関係なし!協力して乗り越えた野外炊事

1日目午後の野外炊事では、あいにくの雨模様。それでも学生たちはグループで協力しながらカレー作りに挑戦しました。

あいにくの天気でした

火起こしや調理に苦戦しながらも、「どうすればうまくいくか」を話し合い、試行錯誤。完成したカレーを囲んでの食事は、まさに達成感そのものです。

野外炊事
 
無事にカレーが完成!

大学生としての第一歩を踏み出すプログラム

合宿では、楽しさだけでなく、これからの大学生活に役立つ内容も充実しています。

  • 大学での学び方や心構えを学ぶ講義
  • グループ対抗のゲームを通じた経済学の体験
  • クラス分けテストと履修指導
  • 就職活動でも活かせるグループディスカッション演習
クラス分けテスト、真剣です
 

特に近畿大学経済学部の石村雄一先生をゲストティーチャーとしてお招きしたグループディスカッションでは、自分たちの意見をまとめて発表する場面も。
大勢の前で堂々と発表する姿からは、わずか2日間での大きな成長が感じられました。

意見を上手くまとめて発表できました
4年間頑張りましょう!

動画で雰囲気をチェック!

当日の様子はダイジェスト動画でもご覧いただけます。
自然に囲まれた環境の中で、笑顔あふれる学生たちの姿をぜひチェックしてみてください。

 

〈経済学部通信〉三谷直紀特任教授がご退職されました

2026年3月31日をもって、長年にわたり教育・研究に尽力されてきた三谷直紀先生が退職されました。

三谷先生は労働経済学を専門とし、日本の労働市場や政策に関する研究・教育の第一線で活躍されてきました。その歩みの出発点は数学にあります。東京大学理学部・大学院で数学を学んだ後、1974年に旧労働省(現・厚生労働省)に入省され、約15年にわたり労働政策の立案や労働市場分析に携わりました。理論だけでなく、現場の課題と向き合ってきた経験は、その後の研究と教育の大きな礎となっています。

1989年に神戸大学大学院経済学研究科の助教授に着任されて以降は、大学教員として多くの学生を指導しました。2013年からは岡山商科大学経済学部に拠点を移し、2021年からは特任教授として教壇に立ち続けてこられました。

三谷先生の授業の魅力は、「現実とつながる経済学」にありました。労働省での実務経験に加え、フランスやイギリス、アメリカの大学・研究機関での在外研究や教育経験を活かして国際的な視点から日本の労働問題を捉える講義は、多くの学生にとって新鮮で刺激的なものでした。

研究面でも、長期失業のメカニズムや最低賃金制度、女性管理職比率の国際比較など現代社会の重要な課題に取り組み続け、多くの成果を発表されてきました。理論と実証、そして政策をつなぐ研究スタイルは、労働経済学の分野において確かな存在感を示しています。

また、岡山県がご出身ということもあり、県内の自治体と連携して高齢者雇用の観点から地域の活性化にも取り組まれました。

長年にわたるご尽力に、心より感謝申し上げます。三谷先生が育ててこられた学びの精神は、これからも多くの学生の中で生き続けていくことでしょう。

(経済学部 熊代和樹)

経済学部教授会での挨拶
花束の贈呈


三谷先生は商大ブログにも多くの記事をご寄稿くださいました。過去の記事も是非ご覧ください。

〈経済学部通信〉情けは人のためならず:ワクチンとクジラの話

〈経済学部通信〉The Credibility Revolution(信頼性革命)

〈経済学部通信〉思いて学ばざれば即ち殆し

〈経済学部通信〉思いて学ばざれば即ち殆し

〈経済学部通信〉仕事を学ぶこと(On-the-Job Training)

〈経済学部通信〉構造把握力

〈経済学部通信〉コートジボワール訪問記

〈経済学部通信〉英語でレクチャー

〈経済学部通信〉英語でレクチャー

 

 

 

〈経済学部通信〉岡山商科大学×近畿大学 合同ゼミを開催しました!

 

2026年3月15日・16日の2日間にわたり、岡山商科大学経済学部と近畿大学経済学部による合同ゼミが開催されました。岡山商科大学からは池田昌弘ゼミ井尻裕之ゼミミ熊代和樹ゼミ、近畿大学からは石村雄一ゼミの合計約50名の学生が参加し、学びと交流にあふれた充実した時間となりました。

■ 1日目:プレゼンテーション大会で成果を発表

初日は学内のプレゼンテーションホールにて、12チームによるプレゼンテーション大会が行われました。各チームは、この1年間かけて取り組んできたグループ研究の成果を発表しました。

テーマは、金融、ジェンダー、人間関係、環境問題など多岐にわたり、それぞれの課題を経済学の視点から分析した内容が紹介されました。どの発表も工夫と努力が感じられるもので、学生たちの成長がうかがえました。

また、発表後には活発な質疑応答が行われ、鋭い質問や多様な意見が飛び交うなど、会場は大いに盛り上がりました。他大学の学生との議論を通じて、新たな視点や気づきを得る貴重な機会となりました。

■ 2日目:岡山の魅力と交流を満喫

2日目はゼミや大学の枠を越えたグループに分かれ、岡山市内の観光を楽しみました。初対面同士でも自然と会話が生まれ、学びを共有した仲間としての距離が一気に縮まります。

観光の後は、旭川の河川敷にてバーベキューを実施。開放的な雰囲気の中で食事を囲みながら、学生同士の親睦をさらに深めました。

 

河川敷でのバーベキュー
特に優れたプレゼンには賞が贈られました

 

 

学びと出会いにあふれた2日間

今回の合同ゼミは、経済学の知識を深めるだけでなく、新しい出会いや交流の場としても非常に有意義な機会となりました。普段のゼミ活動では得られない刺激を受け、参加した学生たちにとって大きな成長のきっかけになったことと思います。

今後もこのような取り組みを通じて、学生同士の学び合いと交流を促進していきます。

(経済学部 熊代和樹)

閉会式

 

〈経済学部通信〉IRとは?

今回は佐井先生にご寄稿いただきました。


数年前から本学でIRの担当をしています。
学生や学外の方にはあまり馴染みがないかもしれません。

ネットでIRを検索すると「投資家向け広報」や「統合型リゾート」の説明が表示され,なかなか私が担当する業務の説明は出てきません。

実はこのIRはInstitutional Researchの略で,大学においてデータを収集・分析して,大学運営や教育の質を向上したり,重要な決定をサポートしたりすることを指します。
適当な和訳が定着しておらず,一般に英単語の頭文字IRが使われます。

本学にはIR実施委員会という組織があり,その組織内外の多くの教職員がこの業務に携わっていますが,教務課や学生課のように一部屋に集まっていないため,学内を探してもその存在を確認することはできないかもしれません。

学生が入学直後に回答する新入生アンケート,毎年度すべての授業科目について行われる授業評価アンケート,卒業直前に回答する卒業時アンケートなど,学内で実施する多くのアンケート調査にIR実施委員会が関わっていますし,アンケート以外からも情報を集め続けています。

例えば授業評価アンケートの結果は,学内の委員会や,すべての教職員が一堂に会する全学教職員会議で共有されるほか,詳細な集計結果が授業科目の担当者に届き,それを基に授業が改善されます。

2024年度の後期から,それまでの授業評価アンケートの調査期間を1ヶ月前倒ししました。アンケート結果を授業に反映する期間を1ヶ月ほどですが確保して,その授業科目を受講している学生本人に,授業が改善されたことを体感してもらえるようになったと思います。

IR実施委員会の一部の分析結果については,本学の公式ホームページでも見ることができます。(https://www.osu.ac.jp/about/disclosures/ir/

一度覗いてみてください。

(経済学部 佐井至道)

岡山商科大学公式ホームページの「IRに関する情報」のページ
授業評価アンケートの分析結果の例

 

 

 

 

 

 

 

〈経済学部通信〉生成AIという「如意棒」を手に!

今回は韓先生よりご寄稿いただきました。


先日、経済学科の新年会が開かれました。乾杯の音頭に三谷先生が「奔馬ほんばの如く駆ける一年でありますように」と述べられ、その勢いのある表現に心を引かれました。中国語ではどのように言うのだろうと考え、生成AIに尋ねてみたところ、数秒で近い意味の自然な言い方を四つも、例文付きで提示してくれました。そのスピードと整理の巧みさには、正直なところ驚かされました。

しかし一方で、中国語の新年の祝福表現には、単なる比喩ではなく「何が、どのように、どうなるのか」を具体的に示し、洗練された四字熟語が多く使われるという特徴があり、それは中国語母語話者の私には分かっています。つまり、その国の文化的背景から生まれた言語習慣による表現に関しては、生成AIが示す直訳的な言い方だけでは伝わらないのです。

今回の体験から、生成AIを使ううえで大切なことを二つ改めて感じました。一つは基礎的な知識は、AIを使うことで効率よく整理できることであり、しかし、その結果を判断し、適切に応用するためには、やはり自分自身の基礎力が欠かせないことです。

このブログを読んでいる皆さんは、日ごろ生成AIをどのように活用しているでしょうか。私は、生成AIとは「孫悟空に如意棒」のような関係が理想だと思っています。まず自分が「孫悟空」としての力を身につけ、そのうえで「如意棒」のように生成AIを自在に使いこなす、そんな姿を目指していきたいものです。

(経済学部 韓雲冬)

経済学科新年会

 

 

〈経済学部通信〉ドライブレコーダー

その1

えっ👀!!

高島中学校の近くです。

何が起こったのか?

スローモーションを見ているようにゆっくり見えて・・・・しばらくたって逆走?

最近ニュースでよく見るけど~

高齢者かな?顔見る余裕なんてなかった。

その2

犬が事故で

大きなでした。

岡山城東高校の近くです。

 

最近クマの市街地出没ニュースをよく見るけど~

岡山市内でも野生動物出没するんだ。

 

気を付けないと・・・・

(経済学部 石原憲)

 

〈経済学部通信〉EIM 2025国際カンファレンス(中国・長沙)に参加して

今回は劉政達先生にご寄稿いただきました。


このたび、2025年10月25日から26日にかけて、中国・湖南省長沙市の長沙理工大学(Changsha University of Science and Technology)で開催された国際カンファレンス EIM 2025 International Conference “Innovating for a Greener Future” に参加しました。

開催校・長沙理工大学の正門にて記念撮影。緑豊かなキャンパスが印象的でした。

この学会は、「環境・イノベーション・マネジメント」を中心テーマとして、アジア・ヨーロッパ各国から研究者が集い、持続可能な社会の実現に向けた議論を行うものです。

学会のオープニングセッションの様子です。テーマは “Innovating for a Greener Future(より緑の未来への革新)”。

学会プログラムには“Discussant(討論者)”としても名前が掲載され、他大学研究者の発表にもコメントを行いました。

私は本学会で、“Doors to the City: A Heterogeneous-Agent General-Equilibrium View of China’s Urban–Rural Disparity”というタイトルで英語発表を行いました。研究では、中国の都市・農村間格差をマクロ経済モデルで分析し、教育や移動の制約が経済構造に与える影響を定量的に示しました。

研究発表の様子(右が私、左はセッションの司会者)

発表後には多くの研究者と意見交換を行い、特にヨーロッパ・アジア双方の若手研究者との学術的ネットワークを広げる貴重な機会となりました。

さらに、今回の発表は“Best Paper Award”を受賞し、大変光栄に感じております。

授与されたBest Paper Award証書

 

今回の経験を通じて、研究の国際的発信の大切さと、多様な視点からのフィードバックの重要性を改めて実感しました。今後も研究と教育の両面で、国際的な交流を深めていきたいと思います。

 

最後に少しだけ余談を―

湖南料理、本当に辛かったです!

帰り道で「やっぱり牛丼食べたいなあ」と思ったのはここだけの話です(笑)。

(経済学部 劉政達)

〈経済学部通信〉私の好きなこと

今回は三谷先生よりご寄稿いただきました。


私は絵をみるのが好きだ。もともと、小さい時から絵をかいたりすることが好きであったが、あまり展覧会などに行く機会はなかった。しかし、18歳で上京してから美術館や展覧会で絵をみる機会が増えるにつれて益々好きになった。ある時、池袋のデパートでの展覧会で後期印象派のボナールの「ミモザのみえるアトリエ」という絵をみてはまって・・・・しまった。赤や黄色の原色を大胆に使って南仏の明るい庭に面した部屋を描いた作品であった。大都会の雑踏に圧倒され、心細い生活を送っていた私は一縷の光をみたような、救われたような気がした。

就職後、人事院の留学制度で2年間フランスに留学する機会を得た。渡仏するとすぐにエックス・アン・プロヴァンスやマントンなど、南仏の風光明媚な町で語学研修を受けた。セザンヌやモネ、ゴッホなどの印象派の絵が描かれたところである。セザンヌのアトリエにはりんごが絵に描かれた当時のまま置かれていた。ゴッホの絵に描かれた夜景もその当時のままであった。感激した。

ところが、その後ストラスブールやパリの大学に通って勉強していた頃に、大変厳しい試練が待っていた。当時のフランスの通貨フランが円に対し、急騰したのである。日々の生活にも困るようになり、ギリギリの生活を強いられた。しかし、このことはフランス社会の底辺の生活実態を知る上では貴重な体験であった。特にパリのアパートに住む年金生活者のつつましい生活やそれを支えるパンの公定価格等しっかりした社会福祉制度があることを学んだ。ありがたかったのは、当時フランスでは国立の美術館は日曜日には入館料が無料になることであった。たまたま、住んでいたアパートがルーブル美術館のすぐ近くにあったため、貧乏学生でも日曜日ごとに通うことができた。当時は観光客も少なく、モナリザなど、西洋美術の粋を集めた世界有数の美術館をいわば独り占めできたのである。至福の時を過ごした。

その後も旅行や出張、海外勤務などで国内外のすばらしい美術館を訪れる機会があり、実にさまざまな絵を楽しむことができた。中でも印象的だったのが、パリのグランパレでみたフェルメールの「デルフトの眺望」(右図上, Google Art&Culureの絵葉書版より)とアメリカのワシントンのナショナル・ギャラリーでみたゴッホの「ばら」(右図下、同)である。いずれも、気がめいっている時には元気をもらえそうな絵である。

岡山県にも名画がたくさんある。中でも瀬戸内市のオリーブ園で長年風景画を描いてこられた佐竹徳画伯の絵がすばらしい。瀬戸内の明るい光の中にオリーブの緑が映え、遠くに見える島や海との調和が美しい。牛窓の瀬戸内市立美術館には画伯の経歴とともに絵が展示されている。また、倉敷の大原美術館には西欧絵画を中心にわが国屈指のコレクションがある。最近、そこにフランスの後期印象派のシダネルという画家の静謐な絵があることを知った。ぜひ、時間を作って観に行きたいと思っている。

 

好きなことは思い浮かべるだけでも楽しい。
(経済学部 三谷直紀)

佐竹徳「オリーブ園」
瀬戸内市立美術館蔵
瀬戸内市立美術館のWebページより