今回は吉井先生にご寄稿いただきました。
欧州議会選挙
2024年は世界的に選挙の年だといわれています。その頂点は11月5日のアメリカの大統領選挙ですが、ここでは、フランス議会選挙(6月30日、7月7日)、イギリス議会選挙(7月4日)に先立って、6月6~9日に行われた欧州議会選挙についてお話ししたいと思います。
欧州議会とは
欧州議会は、欧州連合(EU)の起源である欧州石炭鉄鋼共同体の共同総会として、1952年9月、初めて開かれました。当時、欧州議会の議員は加盟国議会の議員から選ばれ、共同体の諮問機関であり、立法権限は保有していませんでした。1970年、欧州共同体予算の一部の分野に関する立法権限が欧州議会に与えられ、その後権限分野が拡張されるとともに、1979年、直接選挙により議員が選出されるようになりました。このような経緯から、普通の国であれば議会(国会)が単独で立法権限を保有しているのですが、EU理事会(加盟各国の閣僚による議決機関)と立法権限を共同保有していることが欧州議会の特徴の一つです。もう一つの特徴は、ストラスブール(フランス)とブリュッセル(ベルギー)の2カ所で議会が開かれていることです。事務局がルクセンブルクにもあるため、議員や職員は3都市を行き来しなければなりません。

欧州議会選挙の結果
今年の欧州議会選挙の話に戻ると、マスコミでは、フランスやドイツなどで極右政党が伸び、フランス議会の解散総選挙につながったと報じられていました。欧州議会選挙の仕組みを説明しておきましょう。総数は720議席で、ドイツ96、フランス81からキプロス、マルタ、ルクセンブルクの6までおおむね人口比例で議席が配分され(ルクセンブルクの人口はドイツの185分の1ですから、小国が有利となるように議席配分されています)、加盟27ヵ国それぞれの方法で選挙が行われます。選出された議員は政党会派に属し、加盟国のためではなく、欧州連合のために活動します。
政党会派別の獲得議席数は次のとおりです。
| 政党会派 | 獲得議席数 | 増減数 | |
| 欧州人民党(EPP) | 中道右派・親EU | 188 | +10 |
| 社会民主進歩同盟(S&D) | 中道左派・親EU | 136 | -4 |
| 欧州保守改革(ECR) | 右派(一部極右) | 82 | +10 |
| 欧州刷新(Renew) | 中道派・親EU | 80 | -25 |
| 無所属 | 76 | -16 | |
| アイデンティティ・民主党(ID) | 極右・右派 | 64 | +25 |
| 緑・欧州自由連盟 | 環境・左派・親EU | 54 | -19 |
| 左派・北欧緑左派同盟 | 左派・急進左派 | 40 | +9 |
注:前回(2020年)の議席数は705。
出所:欧州議会HP、JETRO「欧州議会選挙から占う今後のEU政策」。
フランスでは国民連合が30議席、ドイツではドイツのための選択肢(AfD)が15議席を獲得し、イタリアでもメローニ首相が率いるイタリアの同胞が勝利を収めるなど、極右政党が伸張したのは確かなのですが、EPP、S&Dの第1・2党も合計で6議席伸ばし、与党の一角を占める欧州刷新を加えると400を超える議席を確保できた結果、フォン・デア・ライエン委員長(EPP)の続投が決まりました。しかしながら、極右政党が議席を伸ばした一方で、親EUの欧州刷新、環境重視の緑の党が大きく議席を減らしたことは、フォン・デア・ライエン委員長がこれまで進めてきた、2050年までに温暖化ガス準排出量をゼロとすることを目標とするグリーン化政策にブレーキがかかる可能性があることが懸念されます。
欧州議会選挙は国内政治
気をつけなければいけないのは、EU市民がEUではなく各国の政治・経済状況にもとづいて投票しているのではないかという点です。ドイツでは、欧州の病人になってしまったといわれる経済不振を背景に、ショルツ首相率いる社会民主党が2議席、緑の党が9議席と議席を減らし、AfDが議席を伸ばしました。フランスでも、労働市場・失業社会保険・年金などの改革などへの反発から、マクロン大統領率いる中道派の欧州刷新(旧・共和国前進)が8議席、緑の党が7議席を減らし、極右の国民連合が躍進しました。マクロン大統領は、国民連合の躍進をくい止めるため、急きょ議会を解散し選挙が行われました。国民連合の躍進は止めることができたものの、中道・与党連合は議席を減らし、極左・左派が躍進した結果、単独で政権を担える政党がなくなり、フランスの政治混迷が続くことになりました。
ドイツやフランスと同様のことが、私の専門である中東欧諸国でも起きています。ハンガリーでは、オルバン長期政権への批判から政権与党フィデスが2議席減、腐敗を批判したティサ(尊重と自由)が7議席を初めて獲得しました。ポーランドでも、政権を担ってきた法と正義(右派連合)が7議席減らし、市民フォーラム(市民連立)が7議席を増やしました。ルーマニアでは、国内与党の中道右派連合は7議席減の3議席にとどまり、野党の社会民主党が19議席を維持しました。ポーランドやルーマニアでは、フランスやドイツと同じように、極右政党が議席を伸ばしています。
21世紀の政治
EUの起源である欧州石炭鉄鋼共同体が誕生してから73年、欧州議会に直接選挙が導入されてからでも45年が経過しています。EU市民はEUパスポートやIDカードをもち、あらゆるところに国旗とEU旗が掲げられるなど、毎日EUを身近に感じているはずです。しかし、欧州議会選挙は国内選挙の延長線上で投票が行われ、しかも極右・極左へと極端に振れているようです。もし(ほぼ?)トラもその線上にあると思われます。
EU市民がEUではなく国内情勢をもとに投票したことは、私たち日本でいえば、国会議員選挙で自分たちの町の利益にもとづいて投票することと同じでしょう。EU政治が極端に振れているのも、視野の狭いシングル・イシューだけを公約に掲げ、他者を批判し続ける政党が増えていることと同じでしょう。民主主義が機能するためには、個人や少数派の基本的な権利を擁護しながら多数派の意思が形成されなければなりません。
21世紀の政治をより正しい方向に向けていくため、岡山商科大学の皆さんには、より広い視野をもつため、大学時代の4年間だけでなく、卒業後も学び続けていただきたいと思います。
(2024年7月13日 経済学部 吉井昌彦)