〈経済学部通信〉構造把握力

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今回は三谷先生にご寄稿いただきました。


生成AIなどの技術革新が進む中で働く人に必要とされるスキルが大きく変化している。そして、大学教育でもSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)という分野の知識・技能が益々重要になっており、文系の学部でもこうした分野の基礎的な知識・技能を身につけることが求められている。しかし、単にPCなどのプログラムを組んだり、アルゴリズムを理解することができるようになることが、こうした要請に応えることになるのだろうか?チャットGPTを使えば、かなり複雑なプログラムも日常用語で問いかけるだけで瞬時にコードを作成してくれる。では、どんなスキルを磨くことが文系のとりわけ経済学を学んでいる学生に求められているのだろうか?

このことを考える糸口としてSTEMのひとつである数学を学生時代に専攻して現在経済界で活躍している人の話に注目したい。三菱UFJフィナンシャルグループ社長の亀澤宏規氏は東京大学理学部数学科・大学院で数学(整数論)を修めた後銀行に就職したという異色の経歴の持ち主である。母校のある記念日でのあいさつで、「自分は大学で数学を学んだが、数学そのものが役に立つと思ったことは一度もない。むしろ、役に立たないからこそ数学をやる意味があると思っていた。」、「しかし、数学を学んだことで鍛えられたスキルがある。「構造把握力」とでもいった能力である。すなわち、物事を抽象化し、理論化し、そして一般化する能力である。」IT化が進む中で国際金融の激烈な競争社会を生き抜いてきた氏のいう「構造把握力」こそがSTEMで鍛えられ、これからのAI社会で働く人に求められるスキルではないだろうか。

「構造把握力」について、もっと詳しくみてみよう。まず、「物事を抽象化する」とは、複雑な現実の問題から本質的なものだけを抽出し、単純化した関係として問題を設定し直すことである。(実は、私が数学演習などで教えた経験からこの抽象化するということができない人が多い。)つぎに、「理論化する」とはこの抽象化された問題の背後にある理論的な構造を明らかにして問題を解いていくということである。そして、得た結果を具体的な問題の解決に応用し、「一般化」する。このように考えていくと、「あれ?どっかで聞いたことがある。」と思われた人もいるかと思う。そう、『マンキュー入門経済学』の第2章「経済学者らしく考える」に書いてある「科学としての経済学」の説明と酷似しているのである。それもそのはず、経済学という学問はもともとニュートン力学の体系に触発されて発展してきたという側面がある。つまり、STEMのひとつである!

経済学をしっかり勉強して「構造把握力」を身につけることがこれからのAI社会を生き抜くために大切なことではないだろうか。

(経済学部 三谷直紀)

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