〈経済学部通信〉2023年度 経済学部新入生合宿

経済学部では4月8日(土),9日(日)の二日間,岡山市立少年自然の家にて新入生を対象とした合宿を実施しました。この合宿は新型コロナウイルスの影響で2020年から中止しており,3年ぶりの開催となりました。

合宿では6つの研修を通じて,4年間の大学生活で必要になる大学生としての心得やマナーを学ぶとともに,グループワークで仲間との絆を深めました。

ゼミ毎に協力して採火活動を行いました。

採火した火はランプに灯して,合宿の成功を見守ってもらいます。

それぞれの研修ではグループで議論することでお互いを理解し,尊重することを学びました。

野外炊事では役割分担をして,カレーを作りました。

二日目の朝は快晴でした。

朝のラジオ体操

目標の実現のためには普段の振る舞いが大切だと学びました。

近畿大学の石村雄一先生をゲストスピーカーとした就職活動についての研修では,「話を聴く態度」について学びました。

これから4年間,一緒に頑張っていきましょう!

(経済学部 熊代)

〈経済学部通信〉仕事を学ぶこと(On-the-Job Training)

今回は三谷先生にご寄稿いただきました。


1930年代半ば、スウェーデンのある製鉄所で不思議なことが起こった[i]。当時ファーゲルスタ社のホーンダール製鉄所は本社から見放されていた。すなわち、最低限の修理と壊れた装置の交換(新型に代えることはなかった)を除き、15年間もの間新たな設備投資はまったく行われなかったのである。そして、生産方法にも大きな変更はなかった。それにも関わらず、マン・アワー1時間当たりの生産量(=生産性)が、この期間年率で平均2%増加していたのだ。ちなみに、同社の他の工場ではこの間重要な新規の設備投資が行われており、全社平均での生産性の伸びは年平均4%であった。

ホーンダール製鉄所の生産性の伸びは何によって生じたのであろうか?生産設備や生産方法に変化がなかったのであれば、労働者の技能が高まったためとしか考えられない。何か特別の訓練を行った形跡もないので、仕事をすることによって仕事の習熟度=技能が高まっていったものと考えられる[ii](「ホーンダール効果」と呼ばれることもある)。こうした仕事に就きながら仕事を学び、技能や技量を高めていくことは企業内訓練あるいはOJT(On-the-Job Training)と呼ばれている。この中には、先輩や上司による指導・教育や座学での学習なども含まれる[iii]。ホーンダール製鉄所の事例は、特段の訓練プログラムを実施しなくてもOJTの効果が馬鹿にならないことを示している。

なぜ、OJT(仕事をやりながら仕事を覚えること)が大切なのか?それは、仕事を遂行する技能・技量には、言葉にできるは知識(命題知)だけでなく、言葉にできない知識(技能知)が必要だからである[iv]。そして、技能知は実地で仕事をしながら覚えていくしか習得できない。たとえば、テニスでラケットを使ってボールを打つことを学ぶにはいくら言葉で説明を受けてもだめである。実際にボールを打ってみないと習得できない。その時自己流でやると悪い癖がついてしまうが、よい指導者について教えてもらえば上達が早い。アリストテレスは『ニコマコス倫理学』の中で、「人は建築をすることによって大工となり、…」と述べており[v]、OJTの本質を見抜いている。大工になるには、実際に建築をして大工の仕事を覚えていくしか方法はないのである。

日本では、大企業を中心としてOJTによる巧みな技能形成システムが形成されている。幅広い持ち場を移動することによって変化や異常に対応できる技能形成を図るとともに、技能の幅と深さを査定し、それを賃金に反映して技能形成へのインセンティブを高める賃金制度との組み合わせである[vi]。

政府は「新しい資本主義」で「人への投資」を主要政策に掲げているが、経済社会の構造変化の中で日本企業が長年培ってきたOJTによる技能形成システムを生かす知恵が求められている。そして、もし、学生諸君が就活で企業の選択に迷ったら、人を育てることに熱心な企業かどうかもひとつの重要な判断基準になるのではないだろうか。

(経済学部 三谷)

【注】

[i] Lazonick and Brush (1985).

[ii] “Learning by Doing” と呼ばれることもある。ここではOJTに含める。

[iii] 職場外の研修所などで行われる訓練をOff-the-Job TrainingとしてOJTと区別することもある。本稿ではこれらの座学も含めてすべての企業内訓練をOJTとする。

[iv] 詳しくは信原(2022)などを参照されたい。

[v] アリストテレス(1971)p.72.

[vi] 詳しくは、小池(2005)。

【参考文献】

小池和男(2005)『仕事の経済学』第三版、東洋経済新報社。

信原幸弘(2022)『「覚える」と「わかる」―知の仕組みとその可能性』ちくまプリマ―新書。

アリストテレス(1971)高田三郎訳『ニコマコス倫理学』上、岩波書店。

Lazonick, W. and T. Brush (1985), “The “Horndal Effect” in Early U.S. Manufacturing”, EXPLORATIONS IN ECONOMIC HISTORY 22, 53-96.

 

〈経済学部通信〉佐藤豊信先生が退職されます

令和5年3月をもって,本学経済学部の佐藤豊信先生が退職されます。

佐藤先生は平成27年3月に岡山大学大学院環境生命科学研究科を退官された後,本学経済学部に着任されました。

ご専門は農業経済および農業政策であり,水利権や農村地域における資源,介護など,多角的な視点から国内外の農業経済について研究され,多くの業績を残されました。

また,農業経済論や地域政策などの授業を担当され,教育面でも経済学部の発展にご尽力いただきました。

本ブログにおいても,「水」にかかわる話題を始めとして,非常に面白い記事を多数お寄せいただいているので是非ご覧ください。

〈経済学部通信〉商大キャンパスを取り囲む農業用水路から歴史を見てみると 

〈経済学部通信〉経済学と自然科学

〈経済学部通信〉大学と楷の木

〈経済学部通信〉最適技術とは何か?

 

(左)佐藤豊信先生 (右)田中勝次経済学部長

3月15日経済学部教授会にて

(経済学部 熊代和樹)

〈経済学部通信〉お元気ですか? 遠く離れた大連より 

今回は   中国・大連に帰省されていた韓先生にご寄稿いただきました。 


 凍てつく大地に降り立ったのは、岡山を立って2日後だった。
 コロナ禍前ならこっちの家からあっちの家まで半日で行き来できる距離だが、今回は新幹線で成田、中国入国のためのPCR検査、そして4時間遅れの空の便…
 でも、母の顔を思い出すと、すべての苦労は蜜の味。

 3年間、千日余り、この月日の流れが目見えて感じられたのは、身長も顔だちも見違えるほど成長した甥と姪たち、それともう一つ、スタッスタッと台所を動き回っている母の、やや小さくなったうしろ姿。山ほど伝えたいけれど、口を開けば涙。痩せただの顔色がよくないだのと、みんなの中のわたしの大好きな料理を次から次へと勧められて「はいはい」とばかりで、なぜかどれもしょっぱい味だった。
 この3年間、失ったものはいかに大きいことか。

 
  母の暦の今日

 明日で新年はひと月が経つ。だが、旧正月はまだ9日、お正月の真っただ中だ。田舎にある実家では一日中爆竹や打ち上げ花火の爆音が響いてくるし、家々に年始回りに訪ねるのを控えて道端で交わされた年始の挨拶が時折聞こえてくる。一声ひとこえは元気がいい。そして家々の入口に高く飾られている赤い提灯、あかあかと兎の年の順風満帆を祈っていよう。

願いがこもった提灯、赤々と

 この2、3日、風もなく陽燦々。もう立春だったんよと母は言った。ほんとだ、つい先日姪と一緒にスケートして遊んでいたダムが、もうすでに岸辺から溶け出していた。お昼前に母と2人で裏山を登ったら、黄色一色の山の中腹の日当りのいいところにうっすらと青く芽吹き始めた野草も出たのではないか。すべてが動いているのだ。

ダムの氷上を滑る

 この裏山の東側、村を見渡せるところに韓家の墓地があり、父がそこに眠っている。雑木林の中でも遠くから青く茂っている2本の柏が目印だ。古希を迎えた母が守ってくれているこの家を、20年間も黙々と見守り続けてくれており、この先もずっとずっと…

裏山を降り、枯れ枝を薪に持って帰る母

―私たち兄弟3人の心の住処、いつでもどこでも思い出せば心がポカポカ―

わがふるさとよ とわのエナジー

(経済学部・韓)

 

〈経済学部通信〉2022商大祭 DAY 2

12月10日,11日に開催された本年度の商大祭に合わせ,経済学科では学年毎に対抗ゼミイベントを開催しました。今回はその二日目に行われた3・4年生研究演習のプレゼンテーション大会の様子をお伝えします。

一日目に関する記事はこちらへ


國光ゼミAチーム これからの社会人基礎力と就職支援
経済産業省が提唱している,「前に踏み出す力」,「考え抜く力」,「チームで働く力」からなる社会人基礎力について発表しました。時代とともに働き方や必要とされるスキルが変化していることに触れながら,これらの力がなぜ必要か,どのように身につけるかについて説明しました。また,発表の後半では実際に社会人基礎力を身につけるために参加した,瀬戸内市へのインターンシップについての報告がありました。

山下ゼミ キャッシュレスについて〜今後の未来〜
現在の日本のキャッシュレス決済の現状と今後の見通しについて発表しました。キャッシュレス決済のメリットとデメリットを利用者目線,事業者目線の両面から概観しつつ,具体的な事例を挙げながら解説がありました。また,キャッシュレスを促進することの政策的な観点からの意義についても言及されました。

國光ゼミBチーム シニアの就活アプリ〜瀬戸内市民のための就職支援プラン〜
ゼミ活動の一環として行った,県内の高齢者雇用を促進するための政策提言について発表しました。政策の現場や学内の高齢職員へのインタビューをすることで県内の高齢者雇用の現状と実際の労働者の声が丁寧に調査されていました。これらの結果を踏まえ,現在の求人サイトは高齢者に対し最適化されていないことに着目し,高齢者専用の求人アプリを実際に作るという非常に意義のある活動をしています。

渡辺ゼミ アンケートデータを用いたおすすめの飲食店のマップ作成
学生を対象にアンケート調査を元にした,岡山市内で学生が利用しやすい飲食店の紹介を行いました。コロナ禍に入学したことで学生同士の交流ができなかった世代ですので,コロナ対策が緩和されつつある今,残された学生生活を充実したものにするための一助となり得る発表でした。

井尻ゼミ 日銀グランプリの取り組み2022
例年開催されている,学生による政策提言の場である日銀グランプリの活動報告をしました。井尻ゼミでは班ごとに交通インフラ,ゴミ分別,キャリア計画に注目し,分析と提言を行いました。どの班についても現状の問題点を丁寧に分析した上で,海外の導入例などにも触れながら意義のある提言が為されました。

両角ゼミ イギリス産業革命期の人びと
イギリスの産業革命期の生活について発表しました。イギリスといえば紅茶とフィッシュアンドチップスが有名ですが,これらが産業革命期に労働者が求めた食事であり,それが現在まで文化として根付いているという興味深い報告がありました。後半では当時の勤務体系や富裕層と労働者の比較について説明がありました。

田中勝次ゼミ 中国における人口制限政策の緩和と影響
中国のいわゆる一人っ子政策の変化とそれに伴う人口への影響について発表しました。人口抑制を目的として始まった一人っ子政策ですが,多くの先進国が抱えるように人口減少に直面し,見直しが行われています。その背景にどのような課題があり,どのような対策が取られているかについて,留学生3名のグループが発表しました。

各チームのプレゼン終了後,学生と教員による投票が行われ,以下の通り受賞チームが決定しました。

総合1位 國光ゼミBチーム
総合2位 井尻ゼミ
総合3位 両角ゼミ
デザイン賞 國光ゼミAチーム
スピーチ賞 井尻ゼミ
敢闘賞 渡辺ゼミ

 

 

〈経済学部通信〉2022商大祭 DAY1

12月10日,11日に開催された本年度の商大祭に合わせ,経済学科では学年毎に対抗ゼミイベントを開催しました。今回はその初日の様子をお伝えします。


1年生ディベート大会
1年生は必修科目である教養演習の一環としてディベート大会を開催しました。
テーマは日本が直面している「移民問題」と「経済格差」の二つで,事前に行われた予選を勝ち抜いた宮島ゼミ,井尻ゼミ,池田ゼミ,佐々木ゼミがディベートを行いました。一年生にとっては難しいテーマだったかも知れませんが,お互いにデータや引用を上手く使いながら自分たちの主張を繰り広げていた点が印象的でした。

優勝は移民問題部門については宮島ゼミ,経済格差部門については佐々木ゼミとなりましたが,どのチームも綿密な準備のもとチームワークを発揮していました。教養演習を担当している教員からも,「ゼミの中で初めてディベートをした時はたどたどしかったものの,繰り返し練習していくうちにきちんとした議論ができるようになってきた」と,学生達の成長を喜ぶ声がありました。

 

2年生プレゼンテーション大会
2年生は必修科目「基礎演習」ごとのチームで各々が決めたテーマについてプレゼンテーションを行いました。
今回のプレゼンテーション大会では以下のようなテーマで発表が行われました。

國光ゼミ ナッジを利用して生活改善
山下ゼミ グリーン経済に向けて〜企業や政府の取り組み〜
田中勝次ゼミ 人口減少による労働力不足〜外国人労働者受け入れによる労働力の多様化を目指して〜
渡辺ゼミ 家賃分析
井尻ゼミ 日経ストックリーグ
佐藤ゼミ 大学生におすすめしたいおすすめグッズ

 発表の中では,現状の問題点を丁寧に分析した上でこれまでに学んだ経済学的な視点を取り入れた政策提言をしているゼミ,見やすく工夫された資料を活用しながらわかりやすい説明をしているゼミなどそれぞれグループで協力しながらよく準備をしてきたことが伺えました。経済学の学習だけでなく「人に伝える」というスタディスキルをよく鍛錬してきた結果が示されていたように思います。

 優  勝は渡辺ゼミとなりました。渡辺ゼミは家賃に関する多数のデータをもとに質の高い分析を行っているとともに,発表の仕方についても原稿を見ることなく聴衆に伝えられていた点が高く評価されました。教員からは「2年生ながら3,4年生のプレゼン大会に参加しても上位に入ることができる。是非学外の大会にもチャレンジしてほしい」との講評がありました。

大学祭で「日韓学生未来フォーラム」の参加報告

12月10日(土)~11日(日)に開催された大学祭において、
「日韓学生未来フォーラム」に参加した3名による報告会が実施されました。

約4カ月におよぶ国際討論・交流のプログラムを通じて
学んだこと・成長したこと等、後輩へのメッセージを伝えました。

約100人を相手に報告する様子
(岡山商科大学アクティブラーニングルームにて)

報告で使用したスライド

 

以下は、参加した3人のコメントを抜粋したものです。

山本竜也(経済学部4年)

「異なる価値観や、新しい考え方を共有することができました。自分自身の視野を広げ、成長につながったと思う。 将来は、日韓の懸け橋となれるように頑張りたいです。」

 

寒川吏久斗(経済学部3年)

「韓国の学生と、互いに連絡を取り合って、また会う約束をしました。次に会うまでに、韓国語でコミュニケーションがとれるように勉強します。」

 

柳原鈴香(経済学部2年)

「韓国の学生はとても優しくて、気さくで、男女・学年関係なく仲良くなれて、本当に良かったです。更に韓国が好きになりました。来年の韓国留学を考えています。」

〈経済学部通信〉県立操山中学の生徒が研究室を訪問する!

今回は宮島先生にご寄稿いただきました。


 令和4年11月4日に岡山県立岡山操山中学校1年生の生徒3人が研究室を訪問してくれました。総合的学習の時間「未来航路プロジェクト」の取り組みとして「岡山を知ろう」のテーマのもと、グループ別課題学習として私の研究室を訪問してくれたのです。どうして岡山商科大学の私を選んだのと聞いたら、インターネットでコミュニケーション能力と英語を検索すると私の名前が出てきたそうです。事前に3つの質問が用意されていました。

質問内容

  1. 外国人と話すとき気をつけたほうが良いこと(日本人との違い)
  2. コミュニケーションを取る場所によって話し方、態度の変化はあるのか
    • コミュニケーションを取り易い場所、取りにくい場所というのはあるのか。例 学校内 職場 食堂 飲み会の場で上司など
  3. 知らない目上の人から急に話しかけられた時の対応(目線や手の動きなど)

 

この3つの質問に対する答えを求められました。外国人とのコミュニケーションで大切なのは挨拶の仕方で、これは文化の違いが大きく現れることです。オーストラリアで高校生を引率した時、ホストファミリーのお父さんがハグをするので嫌だったと相談を受けたことがあります。善意の優しさの行動でしたが、日本ではそういう習慣はないですよね。映画ETの少年と宇宙人の挨拶を例に話をしました。いずれにせよ相手の文化をしっかり理解しておくことが大切ですね。そして外国人でも日本でも大切なのは目線です。相手の目を見て話すことが大切ですね。また、TPO―Time(時)Place(場所)Occasion(場合)―を意識してコミュニケーションを取ることが大切だとも話しました。また、コミュニケーション能力は、意思伝達力・論理的表現力・好感表現力・対人調和力の4つの要素を持つことが必要です。

 生徒はしっかりメモを取り、分からないことはきちんと質問して終始笑顔で対応してくれて、すでにコミュニケーション能力が身についている優秀な生徒さんでした。将来の目標を聞くと、〇〇学部に行きたいとしっかりとした目標を持っていて驚かされました。

 約2時間半の訪問で彼らが満足する答えが出来たかどうか不安ですが、とっても楽しく有意義な時間を持つことが出来ました。さすが、操山中学の生徒さんです。これからのさらなる成長を期待しています。頑張って!

(経済学部 宮島宏幸)

(研究室訪問の様子)

 

〈経済学部通信〉働くということ

今回は三谷先生にご寄稿いただきました。


ある時、行列のできるおいしいパン屋があるといううわさを聞き、訪ねてみた。うわさにたがわず長蛇の列ができていて長い時間行列してパンを購入した。おいしかった。しかし、店の名前に違和感があった。 industryという名前がどうにもなじめず、変なパン屋というイメージであった。確かにパン製造もひとつの産業(industry)ではあるが…?

最近、ようやく謎が解けた。industryという英語にはもうひとつ「勤勉」という意味があるのであった[i]。確かに「勤勉な」職人さんが精魂込めて作っているパンという意味なら店の名前としてよく合っていると思った。

人はなぜ働くのか?働くということはどういうことなのか?そして、なぜ「勤勉に」働くことが求められているのか、考えてみたい。

猪木(1987)は西欧の古典や聖書の労働に関する記述を渉猟し、「(労働は)食べるためであり、無為を取り除くためであり、肉体を鍛えるためであり、時には人々に奉仕するためのものでもある。これらの条件のすべて、あるいはいずれかが満たされていれば、労働は「手段」としての意味をもつのである。しかしそれは自己自身のうちにその目的をもつものでは決してない」と述べている(p.203)。つまり人が働くのは何らかの他の目的のための手段であって、目的ではないということである。

経済学でも労働は「仕事から直接得られる喜び以外の、何らかのよい目的のために部分的にしろ全体的にしろ耐え忍ばれた精神ないしは肉体の活動」と定義され、「賃金率は労働の限界負効用と所得の限界効用の比に等しい」とされている[ii]。すなわち、労働は何らかの目的のために行われる労苦を伴う活動とされている。つらく苦しい労働によって得られた生産物を労働主体が獲得するという考えは、私有財産という制度を妥当なものとみなす思想となった。

なぜ「勤勉に」働くことが求められるのであろうか。

ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で、資本主義の精神として読み取ったのはつぎのようなベンジャミン・フランクリンの言葉である。「時間は貨幣だということを忘れてはいけない。一日の労働で10シリング儲けられるのに、外出したり、室内で怠けていて半日を過ごすとすれば娯楽や怠惰のためにはたとえ6ペンスしか支払っていないとしても、それを勘定に入れるだけではいけない。本当は、そのほかに5シリングの貨幣を支払っているか、むしろ捨てているのだ。…」この本の主題は近代以降資本主義経済が発達した地域は、イギリス、オランダなど、むしろ禁欲的な教義を持つ清教徒が多い地域であるという逆説に関する分析である。その結果、「清教徒の生活と近代の資本主義企業との間の生の様式の共通性を理論的に推測し、両者とも「生活を合理的に組織化している」という事実を見出している。…(中略)…そして、すべての人間は不確実な未来に直面しながら心で自己否定的なまでの日常生活に没頭し,神によって与えられた資源をただ懸命に仕事のために使用するという姿を,カルヴァンは貰讃していたという結論に達する。」(猪木(1987))

このようなマックス・ヴェーバーの宗教社会学的な洞察は大変興味深いが、批判もある。たとえば、日本や韓国など東アジアの資本主義経済の発展には適用できない。また、最近では19世紀後半のプロイセンの詳細な地域別データの分析によって、宗教の教義よりは人的資本理論の枠組みで説明できるとする計量経済史的研究もある[iii]。いずれにせよ、「勤勉」に働くことと近代以降の資本主義的経済発展には密接な関係がある。

最後に、仕事から得られる喜びとして、仕事の能力の向上や人間としての成長など「学び」や「成長」といった重要な側面があることを指摘したい。確かに労働はつらく苦しいものであるが、これまでやれなかったことがやれるようになったり、仕事の工夫をこらしてみたり、職場の同僚・上司から指導や励ましを受けたり、何かを達成する喜びを味わうこともできる。これらのことが「勤勉」を鼓舞することはいうまでもない。就活などで仕事を探している時、就職先の企業を見極めるには、人を育てることに熱心な企業かどうかも大事なポイントである。

(経済学部 三谷直紀)

 

 

参考文献

猪木武徳(1987)『経済思想』岩波書店。

ジェヴォンズ、W. S.(1981)『経済学の理論』小泉信三・寺尾琢磨・永田清訳/寺尾琢磨改訳(近代経済学古典選集 4)日本経済評論社。

ヴェーバー、M.(1989)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』大塚久雄訳、岩波文庫。

Becker, S.O. and L. Woessmann (2009), “Was Weber Wrong? A Human Capital Theory of Protestant Economic History”, Quarterly Journal of Economics, pp.531-596.

注

[i] industryの語源はラテン語のindustria(勤勉)であり、フランス語を経由して15世紀後半英語に入ってきた。「産業」という意味は18世紀後半の産業革命期以降に付け加わった。

[ii] ジェヴォンズ(1981)

[iii] Becker and Woessmann (2009)

日韓学生未来フォーラム -韓国編-

(財)李煕健韓日交流財団が主催する、「第7回日韓学生未来フォーラム」に本学の学生3名が参加します。日韓相互理解を目的として、両国の学生15名ずつ計30名と関係者10名が集まり、ワークショップや交流会が行われます。今年のテーマは「ウィズコロナ時代における日韓未来協力に向けた大学生の疎通と交流」で、政治・経済・文化の3つの論題に分かれて討論をします。

9月と11月の2回ある研修のうち、今回は9月2日~5日に開催されたソウル研修の体験記を報告します。

 

■山本竜也(経済学部4年)

 私は政治分野を担当し、日韓関係の改善策を模索しました。討論会での質問やその回答、意見の質がとても高く、充実した時間を過ごすことが出来ました。韓国の学生は「個性」を大切にし、前向きな考え方をするのが印象的でした。また、晩餐会や観光の時も社交的で、韓国のお酒の飲み方を教えてくれたり、一緒にお土産を選んでくれたり、すぐに仲良くなれて良かったです。

フォーラムに参加したことで、世界に目を向けるきっかけが得られたことに感謝しています。また、人生や夢に対する考え方など、異なる価値観に触れたことで、自分自身の視野も広がりました。終始、笑顔の絶えないフォーラムだったと思います。今年の11月に行われる神戸研修も頑張りたいです。

東国大学(韓国ソウル)にて