法学部の講義紹介

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法学部の粟屋剛先生にご寄稿いただきました。先生の講義を少しだけご紹介いただいています。

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みなさんは、貧しさゆえ、自分の腎臓を売ってまでして生活をしている人たちがいることを知っていますか? 以下は、私の講義「医療と法」で使っているスライドの一コマです。

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臓器売買の問題は、解決されるべき現実の問題であると同時に、法や倫理の格好の演習問題でもある。それは、「法や倫理は何のために、誰のためにあるのか」という根本的問いを提起する。それらが社会秩序維持の道具であるという側面は否定できないとしても、である。私は20数年前、インドで臓器売買の実態調査をしたが、このことを何度も考えさせられた。スラムで出会ったG氏(男性、当時30歳)は腎臓を売って得た金でミシンを買い、それを使ってスラムの人たちの服の繕いをして生計を立てていた。彼は「今大変幸せだ」と言った。体の調子も悪くないという。何か望むことはあるか、と聞くと、「この仕事が死ぬまで続けられますように」と答えた。

彼は非倫理的な行いをしたのだろうか。そうかもしれない。しかし、もちろん本人は、お金はもらったが善いことをした、と思っている。ここで、「もっとも道徳的な人々とは、問題からもっとも遠ざかっている人々である」というマーフィーの法則が思い出される。事件が会議室で起きているのではないのと同様、臓器売買は研究室で起きているのではない。私は、大所高所からの、他人事のような倫理は説かない方が賢明であろうと思う。

私は今でも時々この人のことを思い出す。現在インドでは臓器売買は法的に禁止されているが、G氏が腎臓を売った時代に法律ができていたら(禁止されていたら)彼の幸せはなかっただろう。人を幸せにしない倫理や法に果たして存在価値はあるか?

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