今回は中條先生にご寄稿いただきました。
最近,若い人たちの間でMBTIという性格検査が流行っています。これって信じていいのでしょうか。
MBTIはアメリカで作られたものです。MBTIは,性格を類型化(タイプ分け)する検査として,アメリカでは広く使われている検査だと言われています。
ところで,日本にも似たようなものがあります。御存知の血液型性格診断です。実はこの血液型性格診断は,「心理学研究」という日本心理学会の権威ある論文誌に,古川竹二(東京女子高等師範学校(現在のお茶の水女子大学)教授)という研究者による「血液型による氣質の研究」という論文(古川,1927)で,科学的な「心理学的」検査として発表されたものです。この論文が発表された当時の医学界では最新の知見であった血液型と,性格という心理学的概念とを関連付けたものとして評価されて,陸軍の人事管理にも用いられたと言われています。
この検査は,やがて放送作家の能見正比古によって,「血液型でわかる相性」(青春出版社,1971年刊行)などの若者向けの書籍や雑誌記事で一般に紹介され,ブームを巻き起こすほどに広まりました。
しかし,古川の論文(古川,1927)は今日的な心理学研究の水準から見るとまったく信用できないもので,日本心理学会は,性格心理学の研究者による論文や書籍,講習会などでたびたび血液型性格判断を否定する見解を示しています。
例えば2025年1月には,「血液型性格と心理学 ―血液型と性格は本当に関係があるのか? 歴史とデータから明らかにする―」をという講習会を開催しています。それらのことが功を奏してか,あるいはすでに飽きられてしまったのか,最近では血液型と性格に関係があるというデタラメな説を信じる人は少なくなってきたように思われます。
私も自分の担当する心理学の概論の授業で,適切な心理検査,例えばBig Fiveと呼ばれる検査ようなものを用いれば性格を測定することは可能であるけれども,血液型性格診断では性格は測れない,という話をします。
しかし,血液型性格診断にとってかわるように,最近になって若い人たちの間で流行りだしたのがMBTIです。はたしてMBTIは信用できるのでしょうか。
不思議な話ですが,血液型性格診断をやっきになって否定している日本心理学会では,あまりMBTIは話題に上がっていないようです。そこで,MBTIについて, アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)の編集した心理学辞典「APA Dictionary of Psychology」(VandenBos, 2006)を調べてみました。
同辞典には,MBTIの項目がありました。項目の見出しは,「Myers-Briggs Type Indicator (MBTI)」です。説明を要訳すると,以下のようになります。
マイヤーズ・ブリッグス・タイプ指標(MBTI)
特定の特性に関する対照的な2つの選択肢のどちらを選ぶ,という選択に基づいて,その人をいくつかある性格分類の1つにタイプ分けするように設計された性格検査。性格分類はユングの類型論に基づいている。検査を受ける人は,選択のパターンによってユングの類型に基づくタイプに割り当てられる。しかし,この検査は心理学研究者の間では信頼性が低いとされている。教育カウンセリングや人事管理の分野では,広く利用されている。
APA編集の辞典で,心理学研究者は信頼性が低いとしているということを明記していることは重要だと思います。つまり,MBTIは,性格分類こそ臨床心理学の大家であるユングのパーソナリティー類型の理論に依拠しているものの,タイプ分けを行う検査自体の信頼性が低いこと,それにも関わらずアメリカでは広く利用されていることが明記されているのです。
MBTIという検査の名称は,作者のIsabel Briggs Myers (1897-1980)とKatharine Cook Briggs (1875-1968)母子の名前によるものです。APAの心理学辞典の事項説明では,Isabel Briggs Myersを性格学者 personologistと紹介しています。通常,性格検査の専門家であれば性格心理学研究者 personality psychologist という用語が用いられるのではないか,と思われますが,一般的でない personologist という紹介がなされていることには何か理由があるのかもしれません。
日本で広まっている血液型性格診断は,心理学的には性格検査としては認められません。そのため性格検査として用いるのは誤りです。ましてや血液型で人を差別したりするようなことがあってはなりません。しかし,会話の糸口や友達同士での円滑なコミュニケーションのためのツールとして用いるのには何の問題も有りません。
APAの心理学辞典の記載内容を見る限り,このことはMBTIでも同様ではないでしょうか。インターネットで検索するとMBTIやそれと類似した16Personalitiesといった検査を紹介したり,それであなたの性格や適性を診断してみようといったサイトがいくつもヒットします。
MBTIを自己理解の入口として用いたり,遊びとして他者とのコミュニケーションを円滑にするツールに用いたりする分にはよいでしょう。しかし,MBTIの結果に縛られて自分の可能性を決めつけてしまったり,自分の付き合う相手を選んだり,職業を選んだり,なんてことをしているとしたら,それはあなたの可能性を狭める行為と言えるかもしれません。
(経済学部 中條和光)
文献
古川竹二 (1927). 血液型による氣質の研究 心理学研究,2,612-634.
能見正比古 (1971). 血液型でわかる相性 青春出版社
VandenBos, Gary, R. (2006). APA Dictionary of Psychology. Washington, D.C. : American Psycholloogical Association.