今回は三谷直紀先生にご寄稿いただきました。

2024年2月末一週間ほどの日程で西アフリカのコートジボワール(Côte d’Ivoire)共和国に出張した。主な目的は、独立行政法人国際協力機構(JICA)が行っている「JICAチェア」の一環として開催された国際コンファレンスで、日本の人的資源開発の経験(歴史)に関する基調講演を行うことであった。合わせて官庁訪問や現地の大学での講義なども行った。以下、コートジボアールという国の概要と訪問した際の見聞記である。
I.コートジボアールという国の概要

コートジボアール共和国は、西アフリカの赤道のすぐ北に位置する国である。1960年にフランスの植民地から独立した。人口は約2800万人で、国土は日本の0.9倍の広さがある。首都は中心部に位置するヤムスクロであるが、南部の都市アビジャンにも主な省庁があり、実質的な首都機能はこちらにある。アビジャンは人口約470万人の国際都市で西アフリカ地域の重要なハブとしての役割を果たしている。
民族的には60以上の部族から成り、各部族では固有の部族語が用いられている。公用語はフランス語である。また、宗教別人口分布はイスラム教42.5%、キリスト教39.8%、伝統宗教2.2%、その他の宗教0.7%、無宗教12.6%である(2021年国勢調査)。社会的文化的多様性に富む国であるが、反面国民的な統合意識をいかに高めるかが課題である。
人口増加率は対前年比2.5% (2022年) と高い。人口の年齢構成は30歳未満が70%以上を占めており、若年人口の割合が非常に高い。少子高齢化が進んだ日本とは対照的である(図1、図2)。乳幼児死亡率も高く、若者の就学率の向上や雇用機会の確保など課題も多いが、人的資源開発による将来の経済発展の可能性も秘めている。

気候は、気温の変動が小さく、南部では湿度が高く、南から北に向かって降水量が減少するのが特徴である。月ごとの平均気温の変動は小さく、日中の気温は摂氏 20 度前半から摂氏 30 度半ばの範囲である。乾季は11月から3月まで続く。12 月から2 月の時期に北東から「ハルマッタン」という乾いた風が吹き、サハラ砂漠の砂が飛んでくる。 4 月から 10 月までの雨季には、年間降水量の合計が北東部と中部で約 1,100 mm、北西部で約1,500 mmの雨が降る。
コートジボワールの1人当たり国民所得GNIは2,620米ドル(2022年、世銀、196カ国中145位)である。西アフリカは世界で最も所得の低い地域のひとつであるが、その中では地中海側のアルジェリア(3,900米ドル)やモロッコ(3,710米ドル)に次いで所得の高い国である。ちなみに日本は42,440米ドル、インドは2,380米ドルである。
同国の基幹産業は農業で、農業に従事する人口は全体の約50%を占め、GDPの約30%、輸出の大部分を占める。カカオやコーヒーなどの商品作物が多い。カカオの生産量は世界一で、2位の隣国ガーナを大幅に上回っている。しかし、付加価値生産性はかなり低い。その背景には輸出されるカカオの国内加工率が20%程度とかなり低いことがある。最近カカオを自国で加工し、上質なチョコレートを作って輸出を図る企業も現れてきているものの品質面での欧米との差は依然大きいようである。
コートジボワール産のチョコレートの新製品
1993年より産油が開始され、近年、石油・石油製品は、カカオ・コーヒーの輸出と並び主要貿易品目となっており、2023年からは、バレーヌ石油・天然ガス田で生産を開始している。
政府は、国内インフラ整備等による開発計画に取り組み、2012年以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた2020年を除き、毎年約7~9%の高い経済成長を維持している。現在、2030年までの上位中所得国移行を目指し、更なる経済社会開発に取り組んでおり、貧困対策と若年層の雇用確保、民間投資の誘致、産業の多角化にも取り組んでいる。
コートジボワールはサッカーが盛んな国である。アビジャン中心部にも立派なサッカー場があった。2024年2月の私の訪問直前にアフリカンカップで3度目の優勝を果たし、街には祝賀ムードが満ち溢れていた。国民の統合意識高揚に大いに寄与したに違いない。
コートジボアールは食べ物がおいしいところである。しっかり下ごしらえをするなど料理の味を大切にする国民であることがうかがえる。実際、今回訪問して魚や肉、食用バナナ、果物など大変おいしかった。
II.コートジボワール訪問
出発前に黄熱など8種類の感染症予防のワクチンを接種した。日本からパリ経由で空路片道約33時間かかった。しかし、冬の日本から常夏の国に来て体調はがぜん良くなった。
1. 官庁訪問(アビジャン、2月20日)
到着の翌日に経済企画開発省と労働省を訪問した。次官クラスも参加するというハイレベルの会議であった。初等中等教育やインフォーマルセクターの問題、労働基準監督行政の諸問題などについて議論した。
経済企画開発省での会議
2. アウレ教授宅での夕食会(アビジャン、2月20日)
その夜、国際会議の主催者であるJapan Corner所長で国立高等統計応用経済学大学校(ENSEA)教授のアウレ(AHOURE)先生の自宅での夕食会にJICAの職員二人とともに招待された。当地の興味深いお話を伺いながら、料理をいただいた。大変おいしかった。1日がかりで準備された由、心のこもったおもてなしに感激した。
余談だが、アビジャンの中心部のホテルから郊外のアウレ教授宅まで行くのが大変だった。通常は車で40分で行けるところが交通渋滞で2時間もかかってしまった。渋滞で止まっている間もたくさんのバナナなどの物売りが車の周りにたくさん寄ってきて商売をしていた。聞けば、地下鉄などが未整備のため交通渋滞は毎日のことで、その解消が重要な政策的課題になっており、日本企業もそのための道路整備等で活躍している由。
アウレ教授宅での夕食
3.大学訪問I(アビジャン、2月21日)
アウレ教授が教鞭をとっている国立高等統計応用経済学大学校(ENSEA)を訪れ、英語で労働経済学の講義を行った。日本の大学と違って、学生諸君からたくさんの質問が出て活発な議論ができた。その後、大学構内にJICAの協力で開設されたJapan Cornerを視察した。まだ、日本関係の書籍は少ないもののスペースが広く、立派なセンターであった。今後日本語教育も積極的に行っていく由。
ENSEAでの講義風景
4 .国際コンファレンス(アビジャン、2月22日)
2月22日に開催された国際コンファレンスは、経済企画開発大臣や駐コートジボアール日本国大使なども参加する盛大なものであった。開催場所は前日と同じ大学ENSEAの構内であった。会場の装飾が色鮮やかなことと紅白の風船がここかしこに上がっていることが印象的であった。まず、会議を盛り上げるために、民族音楽に合わせて舞踊が披露された。
経済企画開発大臣のあいさつ
経済企画開発大臣や日本国大使などのあいさつに続いて、コートジボアールにおける人的資源開発や若年の雇用機会の現状に関する報告等があった。そして、私から日本の人的資源開発の経験に関する基調講演をフランス語で行った。主に、江戸時代からの学校教育と企業内訓練の歴史について説明した。岡山県の閑谷(しずたに)学校講堂(国宝)や遷(せん)喬(きょう)尋常(じんじょう)小学校(1907年竣工、重要文化財)などの写真も使って、いかに日本が昔から教育や訓練に力を入れてきたかを説明した。日本の人材形成システムの特徴は、誰もが参加できるという意味で民主的でかつ競争が激しいという点にあることを強調した。フロアからもたくさんの意見が出て会議は盛会であった。
基調講演
5.日本国大使公邸での天皇誕生日祝賀会(アビジャン、2月22日)
その夜は、日本国大使公邸での天皇誕生日祝賀会に招かれた。公邸は高級住宅街にある瀟洒な建物で、その広い中庭で行われた。コートジボワールの各界の要人に加えて、フランス人などの外国人や日本企業や日本政府関係者など多くの人が招かれていた。日本車の展示とともに、日本企業やJICAなどの展示ブースも設けられ、日本料理や日本酒などもふるまわれていた。魚の養殖事業に携わっている専門家などにも会った。この地にこれだけ多くの企業や政府機関が進出し、日本人が活発に働いていることに感銘を受けた。
朧月夜の天皇誕生日祝賀会
6.大学訪問II(ヤムスクロ、2月23日)
滞在最終日は首都ヤムスクロまで出向いて、もうひとつの訪問先大学:国立フェリックス・ウフェ・ボワニ理工科学院(INP HB)を訪れた。アビジャンから車で片道約3時間、立派な高速道路が通っていた。道路の周辺はサバンナ特有の乾燥した畑地帯であった。ときおり通りかかる村の市場の風景は、この国の農村部の貧しさを感じさせるものであった。
INP HBの校舎
今度の大学でも英語で講義を行った。INP HBは理工系のエリート校で、広大な敷地に立派な校舎が立っていた。コートジボワールのみならず近隣の国からも厳しい選抜試験をして受け入れており、全寮制で授業料等全額免除される由。いかに先端技術分野のエリート教育に力を入れているかがわかる。私の講義でも如何にも優秀そうな学生からたくさん質問を受けた。INP HPで学んだ後、さらに留学したいという学生もいた。目を輝かせて学んでいる様子が印象的だった。
INP HBでの講義後の集合写真
大学訪問のあと、ヤムスクロにあるカトリックの大聖堂を見学した。広大な敷地に建つ壮大な大聖堂とステンドグラスの美しさに感動した。
大聖堂のステンドグラス
今回の出張ではJICAの人達に大変お世話になった。感謝!
(経済学部 三谷直紀)
≪参考資料≫
外務省『コートジボワール共和国 基礎データ』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/cote_d/data.html
(独)国際協力機構(2023)『JICA国別分析ペーパー・コートジボワール共和国』 https://www.jica.go.jp/cotedivoire/ku57pq0000046fwq-att/jcap.pdf