今回は佐井先生にご寄稿いただきました。
学生の皆さんには,吸収力があり多感な若いうちに「旅に出ては」と勧めています。私自身も旅行が好きで,国内外問わず,いつも出かける機会を探しています。
ただこの夏は学内外の仕事や研究が立て込んで,お盆の期間も含めて机から離れることができず,なかなか旅行らしい旅行もできませんでした。唯一遠出できたのが,8月末の帰省です。お勧めの一つとして,その旅の目的を紹介します。
遅い時期の帰省と思われるかもしれませんが,私の故郷の秋田県大仙市では,8月の最終土曜日に「大曲の花火」と呼ばれる全国花火競技大会が開催されるため,私のような8月末の帰省は珍しくありません。ちなみに大曲というのは合併前の市の名称で,NHK BSでも毎年この地名を用いて生中継が行われています。

競技大会という名の通り,全国から選抜された28の煙火店が,内閣総理大臣賞や経済産業大臣賞などを目指して競い合う,花火師の方々にとってはプライドをかけた勝負の場となっています。100年以上の歴史があり今年は第96回大会でした。
夕方17:00頃から行われる全国的にも珍しい昼花火の部の後,19:00頃から行われる夜花火の部は,直径30cmほどの10号玉を使った伝統的な芯入割物の部,新しい感覚を取り入れた自由玉の部,そして大曲が発祥の創造花火の部の3部門からなります。創造花火は音楽に合わせて様々な花火を連続して打ち上げるもので,スターマインなどとも呼ばれます。
今年の開催日は8月31日でしたが,超低速で迷走した台風10号の影響で,競技大会を開催するかどうか前日まで大会本部は検討したようです。当日も台風から北に延びる雨雲のために朝から雨が降り続きました。兄夫婦がチケットを購入してくれた雄物川河川敷の会場のテーブル席に向かう時点でも雨は止まず,昼花火を傘の下から見ながらの会場入りになりました。ただ18:00頃から空模様は劇的に回復して夕日が見えるまでになりました。
今年は夜花火の部の直前に,東京ディズニーリゾートのスペシャルドローンショーも行われました。1500機のドローンと花火とのコラボで,おそらく二度と見ることができない一期一会の体験です。実家のすぐ近くで,東京ディズニーリゾートと同じ方のアナウンスが響くその光景は,良い意味で最高の違和感でした。


夜花火の部は22:00すぎに終了しました。最後は,たいまつを持った花火師の方々と,ライトやスマホをかざした私たち観客との,雄物川を挟んだエールの交換です。これも「大曲の花火」が発祥とされています。

翌日行われた表彰式では,地元大仙市の小松煙火工業が最優秀賞にあたる内閣総理大臣賞に輝きました。小さい頃であれば小躍りしたところですが,遠くから参加されている花火師の方々にも受賞してほしいと思うのは年齢を重ねたためでしょうか。
「大曲の花火」を旅行の候補として紹介しておきながら,ここで一つお断りです。一晩だけ人口が20倍近くになるイベントのため,近隣の宿泊施設を予約するのは困難です。JRの秋田新幹線のチケットを取るのもまた至難の業です。ツアーも数多くあり,こちらは比較的予約が取りやすいようですが,競技大会が終わってからバスで山形県や岩手県に移動してホテルに宿泊するものが多いようです。
国内外を問わず,小さな街,山や湖一つ一つにもそれぞれ異なる魅力があると思います。ネットで構いませんので検索してみて,インスピレーションを感じたら旅に出る計画を立ててみてはいかがでしょうか。
(経済学部 佐井至道)