今回は教職課程担当の中條先生よりご寄稿いただきました。
学校を取り巻く最近の報道では,教員採用試験の倍率低下が顕著である,という記事が目立ちます。学校はブラック職場であり,教員という仕事はきついばかりで志望すべきではないと受け取られかねない記事です。でも,ほんとうにそうなのでしょうか。
採用試験の倍率は受験者数を募集人数で割ったもので,自治体や学校種,教科によって異なります。ちなみに,岡山県の令和8年度(令和7年実施)の採用試験では,中学校の平均倍率が4.3倍,高等学校は6.5倍となっています。また,昨年度の小学校を含めた全国平均は3.2倍で,以前に比べて確かにたいへん低くなっています。このデータだけを見れば,学校が働きがいのない職場であり,教職はきついばかりの仕事であることの証のように見えるかもしれません。
しかし,一方で,あまり人目を引くことのないデータかも知れませんが,重要なデータがあります。それは,倍率ではなく,受験者数と採用者数の実数を示したデータです。図1は,文部科学省の教育人材政策の担当者が,教員養成を行う私立大学の組織である全国私立大学教職課程協会の研究大会で文部科学省(2024)の資料に基づいて示したデータです。

後藤教至 2025 今後の教師人材の育成・確保に向けた改革について
全国私立大学教職課程協会第44回研究大会要旨集 p.11より
図1を見ると,10年くらい前から受験者が減少していることがわかります。しかし,その一方で,公立学校の教員採用数が,想定以上に少子化が進んでいるにもかかわらず,わずかずつではありますが毎年増加していることも示しています。このことは,採用試験倍率の低下は,受験者数の減少によるばかりでなく,採用数の増加も影響していることを示しています。
つまり,採用試験の倍率低下だけを見て,学校現場はブラックだ,教職はきついと評価しては行けない,ということです。むしろ,受験者数が減少する中で採用数が増えているという最近の採用状況は,教職の門が従来になく広き門となっていることを意味するものと言えるでしょう。
少子化が進行しているにもかかわらず採用数が増加しているのは,いわゆる団塊ジュニア世代を含む50歳〜60歳以上の教員の大量退職によるものと言われています。公立学校教員の年齢構成は,若年の教員よりも高齢の教員の多い,いわゆる逆ピラミッド型で,これから数年間ベテラン教員の大量退職が続きます。その補充のために採用数が増えているのです。このようなことは教職に限らず,大量採用された世代の退職に伴う一般的傾向と言えるかもしれません。
もちろん,採用試験の倍率が低下しているからと言って,誰でもが教師に成れるわけではありません。教師になるには,教育学部以外では,各自の専門科目に加えて教職科目と呼ばれる教師の専門性を高める科目や,担当する教科の内容や教科教授法などを余分に学ぶ必要があります。このことの負担感もまた受験者数の低下の理由の一つと考えられています。
受験者数が減少する中,幸いなことに,「高校生のなりたい職業ランキング」の調査において,「教師」はいまだになりたい職業の上位に位置しています。例えば,「子どもたちのなりたい職業 2万人の調査モニターの10年間の軌跡」(ベネッセ教育総合研究所,2025)という報告では,2024年度の調査においても,「教師」が高校生,中学生ともになりたい職業のランキングの第1位となっています。この順位は,過去10年間変わっていません。高校生にとって,教師はまだまだやりがいのある職業と評価されているようです。
本学では,法学部と経済学部で中学校社会,高等学校公民の教員免許を取得することができます。経営学部経営学科では高等学校の商業,情報,商学科では商業の免許を取得できます。
教職は次世代を育てる重要な仕事であり,学校はやりがいのある職場です。採用試験の倍率が低下する中,学校現場の職場改善が進められている今は,教職を目指す者にとってまさにチャンス到来と言えるかもしれません。教員を志望する皆さん,本学で教師を目指してみませんか。
(経済学部 中條和光)
文献
後藤教至 2025 今後の教師人材の育成・確保に向けた改革について 全国私立大学教職課程協会第44回研究大会要旨集 p.11
文部科学省 2024 多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について(諮問)参考資料 p.40
ベネッセ教育総合研究所 2025 子どもたちのなりたい職業 2万人の調査モニターの10年間の軌跡【データ集】 https://benesse.jp/berd/special/datachild/pdf/datashu08.pdf (20250826閲覧)