【経済学科の研究紹介】言われるとかえって嫌になる「心理的リアクタンス」の経済学的分析

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「開けないで」と言われるとかえって開けたくなった.

「勉強しなさい」と言われるとかえってやる気がなくなった.

みなさんはこのような経験はないでしょうか.

他の人からある行動を指示されることによって,かえって逆の行動を選びたくなることを心理学では心理的リアクタンス (psychological reactance) という現象の一種として考えます.リアクタンスというのは「抵抗」を意味する言葉です.

心理学では脅かされた自由を取り戻そうと試みた結果,心理的リアクタンスが起きると説明しています (例えばBrehm, 1966).つまり,人は自分の行動は自分で自由に選びたいと考えており,自由が制限されそうになると,それに「抵抗」し,逆の行動を選ぶのです.

 

確かにこの理屈で上手く説明できるケースもあるかもしれません.しかし指示を受けたからと言って常に抵抗するわけではありません(万引きをするなと言われたからと言って万引きしたくなるわけではないでしょう)し,誰から指示されるかによって反応が変わることもあるでしょう(先生に言われると従うけど親に言われると抵抗したくなるなど).実際にはもっと複雑な条件が絡んでくるのではないか,というのが研究の出発点でした.

心理学の弁護をしておくと,心理学でも自由が制限されるといつでも心理的リアクタンスが発生すると言っているわけでは勿論ありません.とはいえ心理学での理論は言語による記述が中心であり,数理的な分析が要求される経済学にそのまま応用することがいずれにせよ難しいのも事実です.このような理由で心理的リアクタンスを経済学の立場から捉えなおせないか,という発想に至ったのです.

私が神戸大学の宮川栄一先生と行った研究 (Kumashiro and Miyagawa, 2017) では,上記の心理学で定説とされている説明から離れ.親や先生,上司のような「アドバイザー」と,子供や学生,部下のような「選択者」の間の駆け引きをゲーム理論を使って分析しました.ゲーム理論というのは人と人との対立関係や協調関係などを数学的に分析するためのツールです.

この研究の特徴は,選択者はアドバイザーからどのように見られているかに関心があることをモデルに取り入れた点です.自分で正しい判断ができるということをアドバイザーに見せつけたいという気持ちを持っているというイメージです.

いつでもアドバイザーに言われる通りに行動しているとまだ一人前ではないと見られるかもしれないので,アドバイザーの指示に反する行動をとる動機が生まれます.一方,いつでもアドバイザーに反した行動を取っていると,大した考えもないのにただ反発しているだけだとみなされるかもしれませんし,自分にも不利益な誤った行動を取りやすくなってしまいます.

この研究では,従ったほうが良いときには従い,ここぞというときには抵抗するといった行動プランを選択者が選ぶ,すなわち心理的リアクタンスが発生する条件を調べました.

まだ改善が必要な部分もありますが,この研究が進むことによって不要な抵抗によって誤った選択をさせないような動機づけの方法にヒントが得られると考えています.なお,この研究については一般向けの雑誌に解説記事を寄稿しています(熊代, 2020).

 

経済学と言うとお金の学問という印象が強いと思いますが,実はこのような「選択」に関わることは全て経済学の対象になります.私のゼミでは,一見あいまいな人の行動や心理を数学的に表現することで,身の回りや社会の出来事を厳密に,明確に捉えることができたら面白いかも,と思える人を特に歓迎します.興味のある人はぜひ岡山商科大学経済学部へお越しください.

(経済学科 熊代)

 

参考文献

J W Brehm, A theory of psychological reactance, New York: Academic Press, 1966.

Kumashiro and Miyagawa, Economic Analysis of Psychological Reactance, Discussion Paper No. 1712, Graduate School of Economics, Kobe University, 2017.

熊代和樹,禁止されるとしたくなる「リアクタンス」の経済学,週刊東洋経済,2020年3月28日号

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