【商学科の研究紹介】「ひるぜん焼そば」と観光資源について考える

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私が専門としている「観光地理学」は,地域における様々なモノやコトが,どのような要因で観光資源として成立し,変化しているのかについて,多面的に検討する学問分野です。

例えば,食を活用した観光資源として「B級グルメ」と呼ばれるものがあります。岡山県では,「津山ホルモンうどん」や「日生カキオコ」などが有名ですね。

私が研究対象としているのは,岡山県の北部,蒜山高原を代表するB級グルメの「ひるぜん焼きそば」です(写真1)。「ひるぜん焼そば」は,どのような要因で観光資源となったのでしょうか。

写真1 ひるぜん焼そば

まず「ひるぜん焼そば」という食が成立した背景について考えてみましょう。ひるぜん焼そばの特徴に「タレ」があります。一般的な焼きそばはソースを使いますが,ひるぜん焼そばはジンギスカンのタレを使って作られるのです。では,なぜジンギスカンなのでしょうか。

蒜山高原は,1970年代に避暑地として有名になった場所で,特に関西方面からの観光客の多い場所でした。こうした状況を後押ししたのは,当時の行政による政策で,蒜山高原を北海道のような観光地にしようと様々なものが導入されました。

そのひとつはジャージー牛で,蒜山高原は今でもジャージー牛乳の一大産地となっています。蒜山高原に限らず,ジャージー牛乳やこれを使った製品は岡山県全域で目にすることがあります。そしてもうひとつはジンギスカンで,多くの飲食店でジンギスカンを提供するようになりました(写真2)。みなさんも「北海道の食べ物」と聞いて「ジンギスカン」を想像する人が多いのではないでしょうか。

写真2 ジンギスカン

こうして蒜山高原に持ち込まれたジンギスカンですが,羊の肉を焼くときだけではなく,様々な料理に使われることになりました。そのひとつが「焼きそば」で,それぞれの飲食店でオリジナルのタレを使った焼きそばがお客さんに提供されるようになったのです。

でも,これだけでは,ひるぜん焼そばは観光には利用されません。観光に活用されるためには時代背景も大きく関係することになります。B級グルメが人々に知られるようになったきっかけとして,「B-1グランプリ」があります。これは全国にあるB級グルメを集めて競い合い,グランプリを決めようというイベントです。その中で,ひるぜん焼そばも2011年にグランプリを受賞することになります。これをきっかけとして蒜山高原には,ひるぜん焼そばを食べに訪れる観光客が増加しました。

さらに,観光として発展させるためには,地域の人々の活動も重要です。ひるぜん焼そばにかかわる人々は「ひるぜん好いとん会」という組織を作り,ひるぜん焼そばをPRするための活動や,ひるぜん焼そばに関連する商品の開発など様々な取り組みを進めています(写真3)。

  写真3 ひるぜん焼そばに関連する商品

このように,ひるぜん焼そばは,その食が成立することになった地域的背景に加え,B級グルメが流行した時代的背景,さらに地域の人々の活動によって観光資源になったと整理することができます。

みなさんも,様々な観光資源が成立した理由や背景について考えてみましょう。

(商学科・大石貴之)

 

【関連する研究業績】

大石貴之(2018):B級グルメにみる食と観光の地域性.井尻昭夫・江藤茂博・大崎紘一・松本健太郎編著「フードビジネスと地域 食をめぐる文化・地域・情報・流通」ナカニシヤ出版,83-94.

大石貴之(2019):岡山県の中山間地域における農業の存続可能性―真庭市川上地区における農産物直売所を事例として―.地学雑誌,128,323-335.

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