【法学部の研究紹介】刑事政策:どうしたら特殊詐欺を防げるか

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法学部の白井諭先生に刑事政策の研究についてご寄稿いただきました。

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 既に発生した犯罪を厳正に取り締まることは、社会の秩序を維持するために必要なことです。しかし、社会の人々が安心して過ごせるようにするためには、犯罪が起きないようにするための予防策を講じることが必要であるともいえます。

 犯罪を未然に防止する方策として、まず、社会の一人ひとりが犯罪に遭わないように気をつけるということが挙げられます。例えば、近年とくに問題となっている特殊詐欺(振り込め詐欺など)を防ぐための方策として、「だまされないようにする」ことが強調されているように見受けられます。しかし他方では、加害者の側は「自分は絶対に被害を受けない」と決めてかかっている被害者の側の心の隙間を突いて巧妙に金銭を巻き上げているという旨が指摘されています。とりわけ「特殊詐欺にだまされないようにしなければならない」という意識が地域社会のなかで徹底されている風潮の下では、「身のまわりでだまされないようにする必要性が強くいわれているにもかかわらず、だまされてしまった」ことに対して自分や他人を責めることになりはしないか、懸念されてなりません。

 私が担当する「刑事政策」の授業でも、特殊詐欺を防止する方策について「被害者が気を付けるしかない」とか「知らない番号の電話に出ない」「簡単にお金を振り込まない」といった被害者個人の意識のほか、家族や地域社会のつながり(「地域で協力し、高齢者の見守りを行う」「家族でのルールを作る」など)や銀行の窓口やATMなどでの水際対策(「銀行の窓口やATMなどでの対処の強化などを強める」など)の重要性が指摘されています。実際に、特殊詐欺をめぐっては、迷惑電話防止機能を有する機器の普及を促進すること、金融機関で一定期間以上にわたってATMでの振り込み実績がない高齢者のATM利用限度額を制限するなど、犯罪の実行やそれによる被害を事前に食い止められるような環境を整備することも行われています。特殊詐欺を防止する方策を検討するに当たっては、個人の意識に訴えるだけでなく、さまざまな方面から予防策を張りめぐらすことが重要であるといえるでしょう。

 法を学ぶことは、条文を覚えることだけにとどまりません。法のルールを通じて、社会の望ましい姿を思い描いていくことも法学の重要な目的のひとつです。社会に幅広く関心を持ち、「どのような社会に住みたいか」を考えることができるのであれば、法学は決して難しくありません。社会に幅広く貢献したいという希望を持った皆さんに会えることを心待ちにしています。

(法学部・白井 諭)

 

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