今回は石原先生にご寄稿いただきました.
紀元前500年頃に活躍したピュタゴラスは数学者・哲学者ですが、音楽の世界でも有名人なのです。
ある日、鍛冶屋の前を通りかかった彼は「キンコンカンコン」心地よい響きを聞いて、ふたつの音の振動数に注目します。
心地よい響き(協和音程)はふたつの音の振動数が、単純な整数比である事を発見したのです。
弦の長さでみると、8度(オクターブ)は2:1となり5度(ド・ソ)は3:2そして4度(ド・ファ)は4:3です。
この3つの音程は心地よく響く音程です。この心地よい響きから完全5度を繰り返してみます。
ド5度⇒ソ、ソ5度⇒レ、レ5度⇒ラ、ラ5度⇒ミ、のように繰り返していくと音階に含まれるすべての音が作られます。
(○注:レ♭=ド♯)
このようにしてできた音階を「ピュタゴラス音律」と呼んでいます。このようにして音階は紀元前500年頃に誕生したのです。
しかし、音楽の進化とともに音階は少しずつ変化していきます。
11世紀頃までの音楽はモノフォニー(1つの旋律)でしたが、しだいにポリフォニー(多声音楽)になっていきます。
ポリフォニーの音楽になってくるとピュタゴラス音律では3度(ド・ミ)や6度(ド・ラ)の音程が美しく響きません。そこで、15世紀後半ピュタゴラス音律を基に3度、6度も美しく響く音律『純正調』が完成します。(4度、5度はピュタゴラス音律のままです。)
美しい和音を生み出した純正調ですが、すべての和音が美しく響くわけではありません。
音楽が複雑になり転調が多用され1曲の中で何度も転調が繰り返されるような楽曲が増えてくると新しい音階が必要になってきます。
ピュタゴラス以来理想であった単純な整数比の理想を捨てた究極の音律が17世紀に登場するのです。
1オクターブを12等分しすべて均一の周波数比で構成された『平均律』です。
平均律は、ピュタゴラスの音律以来約2000年後に確立され、どのような転調にも対応でき作曲家の多様な要求に応えうる音律ですが、ピアノが一般家庭に普及し始めた19世紀になって広く使われるようになります。
現在では平均律が一般的ですが、オーケストラや吹奏樂で使われる弦楽器や管楽器は音程の微調整ができるので3度、4度、5度、6度などのハーモニーでは美しく響く純正調で演奏し、平均律で調律されたピアノと一緒に演奏するときなどは平均律に合わせるなど微妙に音を調整しているのです。
(経済学部 石原)
イラスト出典:
- 「西洋音楽史」100エピソード 久保田慶一著
- 「音楽の科学」岩宮眞一郎著